side 裏ボスさん3
「あ、シド──こんな時間に?」
学園の休日の早朝。寮の自室の窓から豆粒のようなサイズのシドの姿を視認したリニアスタ=サーベンタスは、さっと顔に血が上るのを感じる。
気がつけば窓枠に貼り付くようにして身を隠していた。
リニアスタの人並外れたステータスでもなければ到底、視認出来ない距離がシドまではあった。なので、シドからリニアスタが見える可能性はほぼないはず。
しかし、シドの姿を見て、その手の感触がまざまざと呼び覚まされてしまったリニアスタには、そんな冷静な判断もできなくなっていた。
背中を擦るシドの手が、まるで存在するかのように身をよじるリニアスタ。
「そういえば、教会でダンジョンを発見したと噂になっていたけど、大丈夫だったのかな」
窓枠の端からそっと顔だけ覗かせて、シドの小さくなる後ろ姿を見ながら呟くリニアスタ。
復興の手伝いに行ったシドとあの男女が、ダンジョンを見つけたというのは学園の教導室でももっぱら噂になっていたのだ。
人付き合いをしていないリニアスタの耳にも届くくらい、大っぴらに語られたそれを聞いて、リニアスタは実は心穏やかではなかった。
とはいえ、例の魔素暴走の特異点を処理する姿をシドに見られて以来、リニアスタはシドに近付けないでいたのだ。
話しかけようにも、顔が勝手に真っ赤になってしまい、体も言うことを聞かなくなるのだ。
それでも陰に隠れて視線だけはシドを追うのが止められなかった。
──私、どうしちゃったんだろう。シドに、近付けない……そうか、近付かないで見てれば良いのか
何でそんなことに今まで気がつかなかったのかと、両手を合わせて笑顔をこぼすリニアスタ。
そのまま、急いで出かける支度を済ませると、部屋から、そして寮から外へと出る。
その足は自然と窓から見ていたシドの消えた方向へと向いていた。
──シドの匂い……うん、ちゃんと残っている
最後にシドの姿が見えた地点で大きく深呼吸するリニアスタ。
その人並み外れた能力は多岐にわたる分野で高い実力を誇っており、五感の鋭さもその一つだった。
完璧に記憶しているシドの匂いをゆっくりと堪能するリニアスタ。
そのまま、空気中に残る匂いを辿るようにして、自然と足が動き出すのだった。
シドを、追って。




