揺れるロザリオ
俺はカノンとシスター・セシリアと共に、教会裏手に独立して建っていたと思われる、物置のような場所の片付けを手伝っていた。
魔素暴走によるモンスター化した者達の襲撃は、主に教会の裏手側に被害をもたらした様子。
塀が壊れ、主だった建物の壁には焦げたような痕が残っている。
俺たちが片付ける物置は半ば倒壊していて、片付けには細心の注意が必要だった。
周囲には俺たち以外にもボランティアらしき人たちの姿が見える。
俺はそっとシスター・セシリアの様子を伺っていたが、俺やカノンより若いのに立派にそんなボランティア達の指揮を取っているようだった。
例の天使のような笑みを浮かべて、穏やかに、しかし的確な指示をお願いといった形でしているシスター・セシリア。
俺がこっそり確認していると、一緒に壁の廃材を運んでいたカノンに見咎められる。
「シド、足元。気が散っているぞ」
「お、すまんっ。ありがとう、カノン。助かった」
「さっきから、シスター・セシリアの方を見すぎじゃないか?」
「え──いやほら、立派だなと思って」
「──シドのエッチ」
カノンがシスター・セシリアの体を一度見て、俺の方に視線を戻しながら小声で呟く。
「な、なん……あ、違う違う! そういう体つきのことじゃなくて、指示の出しっぷりとか、そういうのだよ」
俺は慌てて弁明する。シスター・セシリアはそちらも確かに立派なものをお持ちで、首からかけたロザリオは宙に浮きがちだし、指揮で腕を動かす度に揺れが起きてはいたが、完全に誤解だった。
「ふーん、体つき、ね。シドってそういう表現、するんだ」
「なっ」
カノンが、反芻するように俺の言葉を復唱する。
そこに、声がかかる。
「シドさん、カノンさん。お疲れ様です。お二人もそれが終わったら少し休憩を取って下さい」
いつの間にか近くに来ていたシスター・セシリア。
気がつけば、周囲には他のボランティアの人たちがいなくなっていた。どうやらみな、先に休憩に入ったのだろう。
「シスター・セシリア、ありがとう。あれで最後なのでそれを運んだら休憩を取らせてもらいます」
「わかりました。それじゃあ私も手伝いますね」
天使の笑みを浮かべて告げるシスター・セシリア。
俺たち三人は最後の壁の廃材をとりに半壊した物置の近くまで移動する。
その時だった。いくつかのことが、同時に起きた。
シスター・セシリアの首のロザリオがキラリと、不自然な輝きを放った。
そして、三人で廃材を運ぶため、廃材の横を大きく回り込んだカノンの足元からみしっという、嫌な音がする。
「あ──」
「か、カノン!」「カノンさん!」
カノンの足元が、崩れる。落下していくカノン。俺とシスター・セシリアは慌ててカノンへと手を伸ばす。
──掴んだっ! あ……
なんとか、カノンの手を掴むことに成功するも、踏ん張ることには失敗する。引っ張られるようにして俺の体もカノンに続いて落下を始めるのだった。




