side カノン
──シドのやつ、心配して探しに行ってみたらサーペンタスとあんなことをしていたなんて……
魔素暴走のあった日の夜、ベッドに横になったカノンは珍しく眠れないでいた。
普段はとても寝付きの良いカノンだったが、この日は別だった。
朝から色々な出来事が有りすぎたのだろう。目が冴えてしまっていたのだ。
逆に、部屋のカーテンの仕切りの向こうからは、すやすやと寝息が聞こえてきている。
カノンが寝られない大部分の原因は、どうやら健やかにお休みになっているようだった。
その原因たるシドを連れてあのあと学園に戻ったカノンは、その際に学園の先生方に無事に報告を終えていた。そこも、シドとの約束もあり、最低限の報告だけで上手く切り抜けられるように、カノンはシドをちゃんと口添えしてあげたのだった。
──シドは、馬鹿正直なところがあるから……そこが良いところでもあるけど……
馬鹿正直な話で言えば、今日、シドから聞いた話しは、どれもが衝撃的だった。特にパラメータ閲覧というものは、かなり危険な力に、カノンには思えたのだ。
──私の状態も、シドには常に筒抜けということだよな。はぁ……
何故か、そこでため息が出てしまう。
男装し、男として生きていくと決めたときから、カノンはどのような恥辱にも耐える覚悟を決めていた。
しかし今の状態は、そんなカノンでも想定していないものだったのだ。
──特にあの、パラメータとやらを見られながらのシドの手から魔素を流し込まれるのは、な……
無意識のうちにごくりと生唾を飲み込んでしまうカノン。
──あれを、サーペンタスはシドとさんざん……
次の瞬間、不思議なことに胸の奥の方に、何かどす黒い感情が沸き上がり始める。
それを慌てて押し込めるカノン。
カノンがベッドに横になってからは、これの繰り返しだったのだ。
魔素を流し込まれた時の感覚の反芻と、その直前に目にしてしまったサーペンタスとシドの姿を見たときの記憶。
それが交互に脳裏をよぎるのだ。そしてその度、カノンの目はさらに冴えるのだった。
──しかし、不思議だ。魔素を流すこと自体は別段、特別な訳じゃない。他の人の魔素に触れる機会だって、ない訳じゃないし。でも、あんな感覚になったのは初めてだった……
気がつけばカノンはそっと自分の背中に上から片手を回していた。
──たしか、この辺……ちょっとだけ。そう、これは単なる実験だから。
そんな風に自分に言い訳しながら、カノンは背中に手のひらを当てると、試しに魔素を動かしてみる。
──確かに魔素の流れは感じる。けど、やっぱりそれだけ。あんな感じにどうしたらなるの……
色々と魔素の動かし方を変えて試してみるが、特になにも変わらなかった。
そのせいでか、なんだか無性にもどかしくなってきてしまう。
──ちがう。これも違う。ああ、もう……
カノンが一人ベッドで自分の背中に手を当てながら落ち着かない様子で右に左に寝返りをうっているときだった。
急に、シドの声が仕切り越しにきこえてくる。
「──むぁ、裏ボスさん! 消し炭! 重要イベントはぁ……」
「ひゃっ」
シドの突然の声に小さく悲鳴をあげると、カノンは慌てて片手を背中から離し、じっと動きを止める。
シドの声は、それだけですぐに聞こえなくなる。代わりに再び寝息だけが聞こえてくる。
──今のはシドの、寝言、だよね? 良かった。前世とやらの変な夢でも見たのかな。はぁ、寝言で良かった。こんなことをしているのを、シドにパラメータ閲覧とやらで見られてたら……
緊張を解いて、ほっと、胸を撫で下ろすカノン。
──もしシドに見られてたら、どうなってたんだろう……
そのカノンの思考の先にあるのは、目が冴えてしまう新たな要因。
こうして、カノンの長い夜はまだまだ続くのだった。




