誤解
「シドの意見はわかった。言いにくいことまで話してくれた、というのもよくわかる。だが、にわかには信じがたい。何よりあのサーベンタスの様子は尋常ではなかった。本当にシドが魔素を流しただけなのか?」
「本当だから。一切、やましいことはない」
「そうか、なら──」
俺は話せる限りのことをカノンに説明していた。
とりあえず、自分のことは転生や特典の件も含めて全て。とはいえ、転生については前世の記憶を思い出したという伝え方にしていた。
シドとしての記憶も経験も完全に引き継いでいるので、そこは嘘ではない。
とはいえ、全くの別人だと言ったときにカノンに拒絶されるかも、と言うのが怖かったのだ。自分でも卑怯だなーとは思う。
そして特典のパラメータが閲覧出来ることはその制限というか、遠距離に使うとどうなるか以外は話した。
なんとなく、そこは怒られそうな気がしたのだ。
パラメータなるものが見えると伝えると、カノンからは胡乱な視線でみられるだけで済んだ。
逆に、裏ボスさんについてはほとんど見たことを伝えたのみ。
人のことを勝手に話すのは良くない。
例えそれで目の前の、俺へ厳しい視線を向けている男装の美少女から厳しい視線を向けられようと、そこは譲れなかった。
「──そのパラメータ閲覧とやらをしながら私に魔素を流してみてくれ」
なんだかとんでもないことを言い出すカノンさん。
「いや、何でだよ」
「害のないことなら問題ないだろう? 私もシドの言葉を信じるのに何か確証がほしい。それにシドだって、このあと学園の先生方に弁明するときに口添えがほしいだろう?」
「口添え、してくれるんだ。カノン」
「っ! ──信じられたら、な」
何故か顔をそらして告げるカノン。
「わかった。うまくいくか、わからないが背中を向けてくれ」
「こうか」
「少し、触れるぞ」
「ああ」
俺はカノンの背中に手を添える。柔らかい感触がしながらも、しっかりと鍛えられた筋肉が感じられる。
果たして上手くいくか確証はなかったが、俺はカノンの背中にパラメータ閲覧をかけながら、細く絞った魔素を流していく。
当然、人の肉体であるカノンは、裏ボスさんとはちがう。
──やると言ったが、どうしたものか……。パラメータを見ると、どうやらカノンは今日も朝、出かける前に剣の修行をしていたみたいだ。真面目だな、カノン──。うーん、その時の疲労でこってる筋肉をほぐす感じにしてみるか……
それはリニの時の鉱石を崩していくのに比べると逆に難しかった。優しく魔素を凝り固まった筋肉にそっと差し込んでいく。
「あ……あ、ん……何か、変な感じが……する。し、シド、ちょっと、まっ──んんっ。し、シドっ」
俺がカノンの背中の筋肉を軽くほぐしたところで、ばっと俺に向かって片手をあげるカノン。
「お、おお。もういいのか?」
「はぁ──はぁ……ああ、もう大丈夫だ」
「な、全くやましいことはなかっただろう?」
荒い息を吐きながら、無言でじっとこっちを見てくるカノン。その表情はとても何か言いたげだ。
しかし、しばしの沈黙の後に、カノンの口から出たのは肯定の返事だった。
「そう、だな」
「良かった、わかってくれて」
俺は無事に誤解も解くことに成功したのだった。




