無実
最後の一欠片まで残さず、全てのリニの体にあった鉱石をほぐす事に成功する。
長く、険しい道のりだった。
俺も、パラメータ閲覧の転生特典がなければ絶対に無理だっただろう。
なにせ、個々の鉱石の形が大きく異なっていたので、それぞれどこの部分からどう崩していくかが違ったのだ。
ただ、鉱石部分自体は見えなくても、肉へと変化しかけるとパラメータが表示されるというのも良かった。つまり、そこが魔素で攻めるポイントとして分かりやすかったから。
そんな訳で、俺はやり遂げた。
心地よい疲労を全身に感じながら小さくガッツポーズをする。
そんな俺の足元では完全に人の姿へと戻った裏ボスさんが、うずくまっていた。
裏ボスさんのその白い肌は上気させ、プルプルと全身が小刻みに震えている。
しかし、しっかりその全身をほぐしあげたので、完全に硬い部分は消え、ふにゃふにゃになっているはずだ。
「────」
裏ボスさんがなにか呟いている。ただ、小声過ぎてよく聞き取れない。
ただ、なんとなく雰囲気で、ただならない様子だけは伝わってくる。
「ええと、どうしたの、かな」
俺はまだどこか苦しいところが残っているのかと心配しながら、膝をつくと裏ボスさんの様子を伺おうと顔を覗き込む。
ぱっと顔をあげた裏ボスさんと、目が合う。
目があった裏ボスさんの顔が一気に真っ赤になる。それも、さっきまでとは比べ物にならないぐらい急激に。
俺が裏ボスさんの反応に驚き固まった時だった。
ちょうど俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。とても近くから。
それは、カノンの声だった。
そうしてすぐに、カノンが姿を現す。
「……シド。おまえ、何やらかしたんだ?」
俺たちを見つめるカノンの視線が痛い。
そこでようやく俺も、はたから見るとどう見えるのか気がつく。
崩れるように地面に横座りして、全身を振るわせながら顔を赤らめる裏ボスさん。それと、そこに覆い被さるようにして顔を近づけているモブ生徒A。
普通に考えて、良からぬことを俺がしたと容易に誤解させる構図だ。
そして、トドメとばかりに、顔を赤く染めた裏ボスさんが両手で自分の顔を隠すように覆うと、そのまま走り出す。
速い。
少し前まで腰砕けにうずくまっていたのが嘘のようだ。将来の裏ボスとしての、さすがの基礎ステータスの高さだった。
俺は裏ボスさんに向かって手を伸ばしかけるが、すぐに手の届かない位置まで逃げられてしまう。そして声をかける暇すら、全くなかった。
こうして、俺は謎の砂の山が点在する荒れ果てた街の一角で、ひとり、カノンの刺々しい視線に立ち向かう事となったのだった。




