石と肉と
魔素暴走の基点となっていた宙に浮かぶリンゴのようなもの。それを握りつぶし果汁を啜るリニは、苦しそうにも、恍惚とした様子にも見えた。
口の端から垂れそうになる果汁を貪欲にその真っ赤で、小さな可愛らしい舌でなめとっていくリニ。
一滴たりともこぼさないように。
そうして、完全に干からびるまでリンゴのようなものをリニが啜り尽くすと、そのカスも、変異したモンスターと同じ様にさらさらと砂になっていく。
同時に、その場で膝をつくリニ。
その顔は真っ赤に上気して、何かを耐えるかのように苦しげに歪んでいた。
俺は自身のステータスから魔素暴走の兆候が消えたのを確認する。
リニが今したことで、多分だが今回の魔素暴走自体は終息したのだろう。
なので、俺は慌てて苦しそうなリニへと駆け寄る。
苦しそうに自分の体をぎゅっと抱き締めているリニの横に俺も膝をつき、恐る恐るその背中に手を伸ばす。そのまま慎重にその背をさすり始める。
──見たことのない、ステータスの状態だ……数値が急激に増減を繰り返している。この、リニの体の鉱石みたいなものはいったい……
「……醜い、でしょう。私のことは、放って、おいて」
苦しげな呼吸の合間にそんなことを言うリニ。
「そういう訳にもいかないだろ。ほら、肉串のお礼もあるし」
「それは、同じものを、私ももらった」
不思議なことに、話している間はステータス数値の増減幅が少なくなるようだ。会話で気が、紛れるのかもしれない。
俺はステータスをもっと細かく観察しながら、強いて会話も続けるように心がける。
「ほら、それに困っているようにみえるし」
「……また、それ」
「ああ、そういえば、そうだ。でも、別に良いだろ?」
──あれ、会話を続けようと心がけるのはいいけど、もしかして俺、裏ボスさんにめっちゃ失礼なことを言っちゃってる?
俺がさすり続けているリニの背中にも、服ごしに大きめな鉱石がいくつもあるのが感じられる。その輪郭をなぞりながら、個別にその鉱石のパラメータが見られないか試みる。
──ダメだ、パラメータが見られない。鉱石っぽいし、やっぱりこれは、生命体じゃないってことだよな……
「なにも、聞かないの?」
「……えっと、リニはどうすると楽になるとかある?」
「きくの、それなんだ。──背中をさすってくれるの、気持ちいい」
確かにリニの言う通り、苦しそうに上気していた顔色も少しだが良くなってきている。乱高下を繰り返していたステータスの数値も徐々に安定しはじめているようだった。
そのせいか、目に見える範囲のリニの体に浮き出ていた鉱石も、少しずつその大きさが小さくなっている。
──確かに背中の鉱石らしきものも……いや、もしかして……これは小さくなっているというより、徐々にリニの体に戻る感じ? つまり、石から肉に変化している? え、てことはその変化中なら、パラメータが見れるんじゃ……
「リニ、ごめん」
「え」
リニの背中の一番首側の皮膚にある鉱石に、俺は思いきって顔を近づける。
服から鉱石がはみ出ている部分だ。
前に一度、リニを抱き止めた時に感じた芳しい香りが鼻先に漂う。
こんな時なのに、そのよい香りに気をとられそうになる自分を俺は必死に律する。そして、リニの背中の鉱石が肉に変化する過程でパラメータが閲覧出来るようになる瞬間を捉えられないかと、目を凝らすのだった。




