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WITH THE WIND  作者: レエ
本編
54/66

黒衣の天使③

「つきましたね」

 霊園の門の前に辿り着いて、ルーシェが言った。

 木々に囲まれた広大な霊園は、昼間は美しい森林公園らしいが、夜は酷く不気味で恐ろしくもある。警備の兵は事情を知っていたので、オレたちの訪問に帰って恐縮しているようすだった。オレたちはすぐに案内役の若い警備兵と共にカスミーロスの墓へと向かった。こんな時間だというのに、カラスの鳴き声が聞こえる。

「待て」

 と、オレは小声で警告した。

 大き目の植木に体を隠し、オレたちは様子をうかがった。

 何やら小声で話す声がしている。

 ずらせ、とか、掘り起こすとかいっているようだ。

 まじかよ……と、内心カスミーロスの兄とやらに呆れつつ、オレは出ていくタイミングを計ろうとした。が、

「ッ……貴様ら、何をしている!!」

 真っ先に、ルーシェが飛び出した。

 慌ててオレと警備兵が続く。

 幸い、まだ墓は無事で、6人の屈強な男と、1人の初老の男が立っていた。こいつがカスミーロスの兄だろう。

「あなたたちは……人間として恥ずかしいと思わないのですか?!こんな……なんて情けないッ」

 激昂するルーシェに、初老の男はにやりと笑っていった。

「見られてしまっては仕方がない。カスミーロスの代わりに、ここには君たちを埋葬してあげるよ、坊や」

 立ちこめる危険な空気に、真っ先に剣を抜いたのはルーシェではなく若い警備兵だった。

 緊急事態を知らせる笛の音が、墓地いっぱいに響き渡った。

「ちっ」

 その音に初老の男は一瞬怯んだが、

「殺れ、確実に息の根を止めるのだ!」

 そう警護の男たちに命じて、自分は身を翻した。

「待て!」

 オレたちは口をそろえて叫んだが、6人の男が行く手を阻む。

 場所を知らせる信号と思われるリズムで、番兵はもう一度笛を吹き鳴らした。

「ここは私に任せて、奴を追ってください!」

 警備兵が叫んだ。彼も見習騎士の一人なのだろうが、武器を携えた6人のプロを相手に、持ちこたえられるはずがない。

「ったく、このクソッたれどもが!!」

 3対6。カスミーロスならばものともしなかった状況だろうが、そろそろいい年になったオレと、才能があるとはいえまだ未熟なルーシェ、そして見習い騎士と思われる警備兵では、少々苦戦を強いられる。

 死んじまったやつのことくらい、ゆっくり眠らせてやってくれてもいいじゃないか。

 せっかくの純白の墓標を、血に染めろって言うのかよ!

 激しい怒りとやるせなさをおぼえたとき、誰も予測しなかった奇怪な現象が起こった。

「?!」

 けたたましい声と共に、一斉に敵に襲い掛かったもの……それは、20羽になろうかというカラスの群れだった。巧みに攻撃をかわしながら、男どもの顔をめがけてしきりに攻撃を仕掛けている。

 オレたちは一瞬わけがわからず呆然としていたが、オレははっとあることに思い当たった。

「ここはカラス様に任せよう。番兵さん、あんたは応援を呼んで、こいつらを捕獲してくれ。オレとルーシェは首謀者を追う」

「は!お気をつけて!」

 敬礼する警備兵の笛の音を背に、オレたちは走り出した。

 墓地の暗闇に男はすっかりまぎれて見えなくなっていたが、そう遠くへは行けていないはずだ。

「あのカラスは……父の呪いでしょうか?」

 若干顔を強張らせ、ルーシェが言った。

「いや……まあ、呪いといえば呪いかも知れないが、オレの予想が正しければ……超強力な味方が登場したってところだな」

 頭上で、一羽のカラスが鳴いた。

 直感的に、俺はそいつが案内役であることを悟った。

「こっちだ!」

 カラスの後を追い、オレたちは走った。月は雲に隠れ、星明りだけではたよりにならない。だが、真夜中の空にカラスの姿は、闇に紛れてしまうことなくはっきりとオレたちの目に映った。

「ぎゃッ!」

 前方で、悲鳴が上がった。

 茂みに隠れていた初老の男に、カラスが先制攻撃したのだ。

「ひ、ひぃ!」

 情けない悲鳴を上げる男にオレは飛び掛り、一発思い切りぶん殴った。数メートル吹っ飛んで倒れた男は、切れた口元をぬぐいながら上体を起こした。案外タフな奴だ。

「うう……ばかな」

「観念しな。ひっとらえて監獄にぶち込んでやる」

「……ふん、そんなことをすればたちまち外交問題だぞ。それに、私はカスミーロスの兄だ。その私を罪人にすれば、カスミーロスの名に傷がつくのではないのかね?ククククク……」

 あーあ、マジでそれをいうか。オレは今更ながら、家出決意した当時のカスミーロスに心底同情した。 

「……だったら、ここで息の根を止めてやってもいいんだぜ、このクソジジイが。人1人を永久に行方不明にすることなんざ、簡単なことなんだよ」

 溜息とともに剣を抜きかけたオレの手に、冷たいものがそっと触れた。

 まるで氷のようなその感触。

 相手が誰か、オレは見当がついていたはずなのにぞっとした。

 まるで幽霊にでも触られたような気分だ。

「やめたまえ」

 遥か高みから脳に直接響くような美しい声に、オレは振り返ることもできずに硬直した。

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