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WITH THE WIND  作者: レエ
本編
53/66

黒衣の天使②

「オルシアさん……!」

 夕刻。

 到着するなりユリューサは目にいっぱいの涙を溜めて、すがるようにオルシアの胸に飛び込んできた。

「あ…あ、本当によく来てくれました。ごめんなさい、私……どうしてもあなたにお会いしたくて。会って謝りたかった。あなたにも……あの人にも」

 話はこうだった。

 カスミーロスが死ぬ前の晩、その時もカスミーロスはいつもと変わらぬ様子で、特に具合が悪そうな感じも見受けられなかったのだが、何故かいつもはユリューサがあまり聞きたがらないからと口にしないオレたちとの冒険譚を、懐かしそうに、そしてとても幸せそうに、眠りにつく直前まで延々とルーシェに語って聞かせていたらしい。

 カスミーロスとユリューサは仲のよい夫婦だったし、一人息子のルーシェのことも目の中に入れても痛く無いほど愛していたが、彼にとってオレたちもまた家族と同等かそれ以上に大事な存在であったことを、昔話を語るカスミーロスの幸せそうな表情からユリューサもルーシェも痛感したと言う。

 ユリューサは、カスミーロスと結婚したあとになっても、いつまでも夫の中に大切な思い出として存在するオルシアに少なからず嫉妬心を抱いていた。実際、何度か心無い言葉をぶつけられたこともある。そんなわけもあり、オレたちは時々手紙のやり取りなどはしていたものの、実際に会うことは殆どなくなってしまっていた。だが、その夜のカスミーロスの様子を見て、彼女はようやく、夫とオレたちを、もっと頻繁に会わせてあげればよかった、これからはそうしよう……と思ったらしい。

 翌朝彼女が目覚めたとき、隣に眠るカスミーロスはまだ幸せな夢を見ているようだった。

 だが、何かがいつもと違った。

 まだ温かい彼の体は、しかしもう息をしていなかった。

 慌てて医者を呼び、ルーシェと共にあらゆる手をつくして蘇生を試みたものの、カスミーロスが目覚めることは二度となく、彼は早すぎるその一生を終えたのだった。

 ユリューサはどれほどショックを受けただろう。どれほどの悲しみを……そしてどれほどの後悔を感じたのだろうか。

 腕の中でひたすら謝り続ける彼女に、オルシアは優しくいった。

「謝ることなんてない。私にも……カスミーロスにも。あんたは、彼にかけがえの無いものをくれたろう?あんたと一緒になってから、あいつは本当に幸せそうだった。私たちといたときとは違う、もっと深い安らぎに満ちた顔をしていた」

 ユリューサはしばらくそうして泣いていたが、やがて落ち着きを取り戻し、オレたちのために温かい食事を用意してくれた。その間、オルシアはユリューサの手伝いをしていたが、オレの方はルーシェから厄介な問題とやらについて話しを聞いていた。

 カスミーロスの葬儀のあと、どこから聞きつけたのかカスミーロスの兄であるという男が訪ねてきたという。カスミーロスの兄といえば記憶によれば某国の大貴族だが、妾腹であるカスミーロスに対して陰湿な虐めを繰り返していた男である。それが元で彼は家を飛び出し冒険者として生きる道を選んだ……と、いつか彼は話していた。

 ルーシェがいうには、オレが昔カスミーロスから聞いたとおり男は外面がよく紳士的な態度で、かつて誤解によって弟が家を飛び出してしまって心配していた。自分としては十分に可愛がっていたつもりだったが、妾腹であるということを想像以上に気にして苦しんでいた弟の心を理解してやれずに申し訳なく思っていた。その後、ギルドでの活躍の噂を聞き彼が立派にやっているなら……と思いあえて何も連絡をとろうとは思わなかったが、ずっと誇りに思っていた等の話をしたあと、埋葬地は是非彼の生家である自分の家の代々の墓地に……と申しでて来たらしい。

 しかし、カスミーロスの墓地はもう用意されていることを伝え、生前の父の話しを聞く限り申し出は受けられないと突っぱねたところ、しつこく訪ねて来ては次第に本性を現し始め、最近では強硬な手段にでかねない勢いだという。現に今日もオレたちが到着する数時間前、いかにもといったこわもての屈強な男たちを供に訪ねてきて、不穏な捨て台詞を残して去っていったという。

「心配なんです。まさかとは思いますが、こう……父の墓を掘り起こさんばかりの勢いで。国のほうでも定期的に警備兵を巡回させる等の手は打ってくれたのですが、なにしろ僕もあまり知らなかったんですが、相手の方がかなり有力な大貴族のようで……」 

 下手をすると外交問題にもなりかねないとのことで、あまり大げさにはできないらしい。一体今更になってカスミーロスの遺体に何の用があるのかわからないが、どうせ世界的に有名な存在になった弟を、都合よく見せびらかしたいだけに決まっている。

「でもまさか父も、死後にこんなゴタゴタがおきるなんて、思っても見なかったでしょうね」

 ルーシェは呆れたように溜息をついた。

 いくらなんでも、遺体泥棒などしたら犯人は明らかだし、余計に家名に傷がつくんじゃなかろうかと思うが、過去に父に聞いたことのある話からだけでもかの家の人間は元々異常な性格が伺えるし、どうも今日訪ねてきたときの様子が気になる、できれば今夜一緒に墓の様子を見に行きたい。というルーシェの言葉に、オレは心よく頷いた。1人で家に残すには心配なユリューサの相手をオルシアが買って出てくれたので、二人だ寝ついたあと、オレたちは早速カスミーロスの墓ヘと向かった。

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