Happy Birthday Orthia⑤
「ミド」
ふいに背後から声をかけられて、オレはハッとして振りかえった。
「オルシア……いつの間にそこに?」
「今来たばっかりだけど……私が来たコトにも気づかずに作業してたのか?仕事熱心だな」
稀代の人形師が、生涯をかけて作り上げたような、ほんの僅かな狂いもない完璧な美貌。だかそこに宿る生き生きとした表情は、人間らしい生の喜びに満ちて輝いている。
夜の帳を思わせる漆黒の髪は、一筋の乱れもなく腰に流れ、午後の日差しを受けて、艶やかに煌いていた。
長い睫毛に縁取られた、魔力あるアメジストの瞳。
抜けるように白い肌はあまり血色のよい方ではなかったけれど、ほんのりと薄紅に色づいた唇は、それだけでとても魅力的だった。
女性にしては肉付きの薄いほっそりとした体。スラリと背が高く、気高い月の女神を思わせる。
「オルシア」
思わず抱きしめると、やっぱり柔らかくて、たおやかな……儚げなその体。花の香りのする髪が、オレの鼻先でそよ風に揺れた。
「な、なんだよ急に。そういうことは、家に帰ってからにしろッ」
低音のオルシアの声。戸惑うとすぐに、怒気を孕む。恥かしがりのオルシア。
あまりベタベタするとかえって怒り出すので、オレは手を離し、すぐに
「すまん」
と一言謝った。もちろん、悪いなんて思っちゃいないが。
「……まあいいや。ほら、これ弁当。なかなか買出しに行く時間もなくて、こんなモンしか作れなかったけど」
手渡されたバスケットには、やたらでかいサンドイッチと、瓶詰めのコーンサラダ、そして、いくつかの鳥のから揚げが入っていて、開けるととてもいい匂いがした。小さな水筒には……ただの水しか入っていなかったが。
「ありがとう、美味そうだな」
「当然だろ。あと、これはタオル。あっちに井戸があっただろ。ちゃんと手を洗ってから食べろよ」
「ああ……うん」
「じゃ、私はあっちを手伝ってくるから。帰宅早々働かせて悪いけど、頑張ってね」
オルシアはそう言って手を振ると、くるりと背を向けてさっさと走って行ってしまった。離れたトコに積み上げられた木の残骸が勢いよく燃えあがったのは、彼女の魔術によるものだ。
そのあとオレたちは日が暮れるまで作業して、そうして二人で一緒に帰宅した。家を失ったマノット夫妻は、しかし、オレが帰ってきたら別の家に泊めてもらうという約束をしていたらしい。ありがたい反面申し訳ないような気もして、〝明日も頑張ろうな〟と声をかけて別れた。
帰り道、夕闇の中にちらほらと星が瞬きはじめている、空。
こんな時間に見るオルシアは、昼間よりも一層綺麗に思えた。
「あ、弁当美味かったよ」
並んで歩くのがなんとなく気恥ずかしくなって、オレは照れながらそう言った。
「あんなモンじゃ足りなかっただろ。家に帰ったら、すぐに食事の用意をするよ。お前はその間、風呂にでも入っていてくれ」
「……手伝うよ」
「一人でできる。仕事から戻ったばかりで、疲れも溜まってるだろ」
「お前こそ。色々大変だったらしいじゃないか。マノット夫人に聞いたぜ。ホント……お前はすごい奴だよ」
「私はただ、自分にできることをやっただけだ。別に特別なことじゃないよ。力さえあれば誰だってやったであろうことをやっただけで、誉めてもらうようなことじゃない」
……そういうことを普通に言ってしまえるところが、お前のすごいところだと思うんだけどね。
「仕事の報酬もたんまりもらったことだし、マノットさんちの件が片付いたらさ、しばらく二人でどっか遊びにでも行こうぜ」
オレはそういって、オルシアの肩に手を回して抱き寄せた。
オルシアはいつものように、少し皮肉っぽい笑みでオレを見上げ、
「そいつは張り切るネタが一つできたな」
と、嬉しそうに言った。




