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WITH THE WIND  作者: レエ
本編
43/66

Happy Birthday Orthia②

「なんか……いい匂いがするな」

 家の内部は、オレが出かけた時のまま、なんの変哲もなく殺風景だ。

「ああ、少し前に、近所の人たちと昼食にしたんだ。それの残り香だろう。……あ、荷物はその辺に置いて、動きやすい服に着替えてきてくれ」

 もう少し、盛大に……少なくとも気分的には盛大に迎えてくれることを期待していたオレは、そっけないオルシアの言葉に、多少物足りなさを感じた。

「ああ、オルシア」

「ん?」

「これ……土産だ」

 気を取り直して、オレは背中に隠していた紫の花束を差し出した。

 オレが持つと不似合いな小さなこの花束も、オルシアの手に渡ると輝いて見える。花も喜んでいるようだと、オレは思った。

「ありがとう。この花……好きなんだ。名前はよく知らないが」

 こうやって、ちょっとはにかんだ笑顔が好きだ。

「前に好きだって言ってたなと思って。ちょうど売っているのを見かけたから、帰宅が遅れたお詫びに、プレゼントしようと思ったんだ」

「前に……?そんな話したっけ?」

「ああ、憶えてたんだから、どっかで聞いたんだと思うぜ」

「いちいち人の話を、よく覚えているんだな」

 嫌味にも聞こえる言葉だが、そうではないことなど、その美しい笑顔を見れば一目瞭然だ。

「昔、塔に住んでいた……いや、住んでたってわけじゃないか。とにかく、塔にいたとき、毎年春になると、塔の周りにこれが咲いてとても綺麗だった……見るたびに心が和んで、こんな景色が見られるなら、ここに居るのも悪くないなあと、いつもそう思ったものさ」

「……」

 オルシアが長い間塔に閉じ込められていたことは、もうずっと以前に聞いていた。

 子供の頃重い病気に掛かった彼女を、一人のいたずらな悪魔が助けたこと。オルシアは一命を取り留めたことと引き換えに、永遠とも言うべき長い寿命と、人の身には余るほどの闇の力を背負わされたこと。

 突如授かった魔力を制御できなかった幼いオルシアが、ただ手に余るという理由だけで、塔に封印されたこと。

 そしていつしか忘れ去られ、孤独と退屈を紛らわすために、塔の中から近隣の村人や冒険者に、魔法でいたずらを繰り返したこと。

 そのせいで塔の魔女と恐れられるようになったこと。

 ある日勇者がやって来て、君をそこから出してくれたこと……。

「塔に居た300年余りの間、色々なものが移り変わっていったけれど、この花は毎年同じように、同じ場所に咲いていた。とても優しい花なんだよ……うん、いい香りだ」

 オルシアはそう言って、ウットリと目を細める。その紫の魔性の瞳に、同じ色の花を映して。

「ありがとう、ミド。とても嬉しいよ」

 夢のように美しい顔に、子供のように無邪気な笑み浮かべるオルシア。その瞳に、ふと寂しさを見たのは、いつが初めだっただろう。

 ふわり……と花の香りが鼻腔を霞め、オレははっとした。雪のように白く、細工物のように美しい腕が、オレの首に回され……薄紅の柔らかな唇が、そっとオレの頬に触れた。背の高い彼女が背伸びしてやっとの、そのくちづけ。

「オル……」

 情けなく狼狽するオレから、彼女はさっさと身を離し、

「ちゃんと生けておかないとな」

 と、花瓶を取りにいってしまった。

 全くオルシアはいつだって、自分の思うがままに行動するだけで……オレの気持ちなんて、さっぱりお構い無しなんだからな。まあ、そこが好きなところでもあるし、どうこう言うつもりもないんだが、久々に帰って来た時ぐらい、もっと暖かく迎えてくれるっていうか……まあいいや。

 隣の部屋にいって着替えをしていると、リビングからオルシアの声が聞こえる。

「二時からマノットさんの家の修理を手伝う約束をしてたんだ。少し遅れてしまったな……お前、着替えたらすぐ行ってくれ」

「……」

「ところで昼食は取ってきたのか?」

 そうそう、そういうことを先に聞いて欲しかったぜ。

「まだだよ」

 せめてゆっくり食事をしてからでもいいじゃないか。オレはそう思ったが、

「じゃ、適当に弁当でも作って持っていくから。工具は向こうにあるよ」

 やっぱりオルシアは、こういう奴らしい。

「わかったよ。じゃあ……先に行ってるぞ」

 着替えを済ませて部屋を出ると、どこへ消えてしまったのかその場にオルシアの姿はなく、代わりに綺麗な白い花瓶に生けられたあの花が、テーブルの真ん中で揺れていた。

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