表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WITH THE WIND  作者: レエ
本編
41/66

花まつり⑥

 昨日の怪しげな風体の魔女とは打って変わって、清楚なドレスに身を包んだ絶世の美女の姿に、すれ違う人々は案の定みな釘付けになった。

「すごいや、魔法使いのお姉さん、本物のお姫様みたい!」

 と、たくさんの子供たちが駆け寄ってくる。あっという間に取り囲まれながら、オルシアは楽しそうに笑いながら「お姉さんは魔法使いになる前はお姫様だったんだぞ~」などと本当のことを冗談のように言った。

 本当に、考えれば考えるほど嘘みたいだとオレも思う。

 明るい朝の光の中を、オレの手を取りながら踊るように軽やかに歩く美しい人。

 彼女は亡国のお姫様で、300年も塔に閉じ込められてて──イケメンの勇者様に助けられたのに、今はオレと二人でいる。

 この村を旅立った時には想像もしなかった未来だ。

 いや、今でもまるで夢を見ているような気がする。

 妖艶な美貌で、子供の様に笑う君を好きになった。

 魅惑的な紫色の瞳も、癖のない真っ直ぐなその光纏う黒髪も全て。

 優しくて傷つきやすい不器用な君を、守りたいと思った。

 運命って言葉は好きじゃないが、自惚れてもいいだろうか。

 オレの全ては、君のためにあるのだと──。

「オルシア」

 広場までもう少しというところで急に足を止めたオレに、オルシアが「ん?」と顔を向ける。

「本当は、もう少し盛り上がってからって思ってたんだが──」

 オレは懐からそれを取り出し、彼女に差し出しながら片膝をついて言った。

「オルシア、お前を愛してる。どうかオレと結婚してください……!」

 突然のオレの告白に、彼女は目を丸くしてオレを見た。

 信じられないというように何度も瞬きし、やがてその紫色の瞳が、涙に揺れる。

「くれるのか?それを、私に……?」

 大粒の涙を流しながらも微笑む彼女に、オレはもう一度言った。

「オレと結婚してくれるか?オルシア」

 その言葉に、オルシアは何度も何度も頷いて、言った。

「もちろんだ。もちろんだ、ミルドレーン……そんなの、OKに決まってる」

 それは嬉しくも意外な言葉だったが、彼女の表情を見るとどうも本当らしい。

 柔らかな細い指に、オレは指輪を嵌める。

 白爪草と四つ葉のクローバーで作った、小さな花の指輪。

「いいのか?私なんかで」

 彼女はそんな風に言ったが、それはむしろオレのセリフだ。

 オレは彼女を塔から救い出した勇者じゃない。別に顔も頭も良くないし、いい年をして安定した職もなければ家も土地も持っていない。戦力だって、その気になれば彼女のほうがはるかに強い。

 いつか悲しませてしまうとわかっていても、身を引くこともできない。

 同じ時間を生きられない。

 もしかしたら、オルシアのほうもそんなことを思っているのだろう。

 それでも……だからと言ってこの瞬間が、共に過ごした時間がなかったほうがよかったなんて、オレは思わないし思わせない。

「お前じゃないとダメなんだ」

 立ち上がってそう言うと、オルシアは嫣然と微笑んでオレを見上げた。両手を広げて抱き着いてきた彼女の細い体を抱きしめると、周囲から拍手と歓声が上がる。

 満面の笑みを浮かべる村人たちに見守られながら、オレたちは少し照れながら初めてのキスをした。

 祝福の声が一斉に上がる。

 鳴りやまない拍手の中、オレたちは改めて手を取り合って、ダンス会場である村の広場へ足を踏み入れた。

 と、その瞬間人々の纏った服が、一斉に変化した。女性は身につけた花冠と同じ色合いのドレスに、男性はそのパートナーに相応しい色合いのリボンのついたブラウスに。子供から老人まで、全ての人が色とりどりの花を纏い、それはまるで妖精たちのパーティーの様に幻想的で美しい光景だった。

「魔法か……?!」

「奇跡だ……!」

 驚きと歓声が、あちこちから湧き上がる。

 オルシアがいたずら気な顔で、オレに目配せして小声で言った。

「魔法は日没とともに解ける。大魔法使いオルシア様から、素晴らしい村への感謝の気持ちだ」

「幻影なのか?」

「ああ。お前のその服も、魔法が解けたらパジャマだからな」

「えぇっ?!」 

 音楽とダンスに合わせ、花びらが舞う。

 もしかしたらオルシアと二人、ずっとこの村で暮らすのもいいかもしれない。

 両親の墓を守りながら、静かに老いて逝くのもいいかもしれない。

 でもきっと……世界にはもっと、素晴らしい景色があるだろう。

 この村を離れたとしても、両親の魂はオレたちを見守ってくれるだろう。今までもそうであったように、これからもきっと。

 何処までも続く青い空を見上げ、オレは言った。

「明日から、新婚旅行に行こうぜ。色んなところを旅して……世界中に思い出を作ろう。そして、どこか気に入った場所に家を建てて、そこでずっと一緒に暮らそう、オルシア」 

 吹き抜ける風が花の香りを運ぶ。

 君は薔薇の妖精の様に美しく微笑んで頷いた。

 きっとこの日の光景は、誰にとっても忘れられないものとなるだろう。

 オレにとっても、君にとっても。

 きっと──……。


  END

短い話のつもりで思いの外長かった(^^;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ