花まつり⑥
昨日の怪しげな風体の魔女とは打って変わって、清楚なドレスに身を包んだ絶世の美女の姿に、すれ違う人々は案の定みな釘付けになった。
「すごいや、魔法使いのお姉さん、本物のお姫様みたい!」
と、たくさんの子供たちが駆け寄ってくる。あっという間に取り囲まれながら、オルシアは楽しそうに笑いながら「お姉さんは魔法使いになる前はお姫様だったんだぞ~」などと本当のことを冗談のように言った。
本当に、考えれば考えるほど嘘みたいだとオレも思う。
明るい朝の光の中を、オレの手を取りながら踊るように軽やかに歩く美しい人。
彼女は亡国のお姫様で、300年も塔に閉じ込められてて──イケメンの勇者様に助けられたのに、今はオレと二人でいる。
この村を旅立った時には想像もしなかった未来だ。
いや、今でもまるで夢を見ているような気がする。
妖艶な美貌で、子供の様に笑う君を好きになった。
魅惑的な紫色の瞳も、癖のない真っ直ぐなその光纏う黒髪も全て。
優しくて傷つきやすい不器用な君を、守りたいと思った。
運命って言葉は好きじゃないが、自惚れてもいいだろうか。
オレの全ては、君のためにあるのだと──。
「オルシア」
広場までもう少しというところで急に足を止めたオレに、オルシアが「ん?」と顔を向ける。
「本当は、もう少し盛り上がってからって思ってたんだが──」
オレは懐からそれを取り出し、彼女に差し出しながら片膝をついて言った。
「オルシア、お前を愛してる。どうかオレと結婚してください……!」
突然のオレの告白に、彼女は目を丸くしてオレを見た。
信じられないというように何度も瞬きし、やがてその紫色の瞳が、涙に揺れる。
「くれるのか?それを、私に……?」
大粒の涙を流しながらも微笑む彼女に、オレはもう一度言った。
「オレと結婚してくれるか?オルシア」
その言葉に、オルシアは何度も何度も頷いて、言った。
「もちろんだ。もちろんだ、ミルドレーン……そんなの、OKに決まってる」
それは嬉しくも意外な言葉だったが、彼女の表情を見るとどうも本当らしい。
柔らかな細い指に、オレは指輪を嵌める。
白爪草と四つ葉のクローバーで作った、小さな花の指輪。
「いいのか?私なんかで」
彼女はそんな風に言ったが、それはむしろオレのセリフだ。
オレは彼女を塔から救い出した勇者じゃない。別に顔も頭も良くないし、いい年をして安定した職もなければ家も土地も持っていない。戦力だって、その気になれば彼女のほうがはるかに強い。
いつか悲しませてしまうとわかっていても、身を引くこともできない。
同じ時間を生きられない。
もしかしたら、オルシアのほうもそんなことを思っているのだろう。
それでも……だからと言ってこの瞬間が、共に過ごした時間がなかったほうがよかったなんて、オレは思わないし思わせない。
「お前じゃないとダメなんだ」
立ち上がってそう言うと、オルシアは嫣然と微笑んでオレを見上げた。両手を広げて抱き着いてきた彼女の細い体を抱きしめると、周囲から拍手と歓声が上がる。
満面の笑みを浮かべる村人たちに見守られながら、オレたちは少し照れながら初めてのキスをした。
祝福の声が一斉に上がる。
鳴りやまない拍手の中、オレたちは改めて手を取り合って、ダンス会場である村の広場へ足を踏み入れた。
と、その瞬間人々の纏った服が、一斉に変化した。女性は身につけた花冠と同じ色合いのドレスに、男性はそのパートナーに相応しい色合いのリボンのついたブラウスに。子供から老人まで、全ての人が色とりどりの花を纏い、それはまるで妖精たちのパーティーの様に幻想的で美しい光景だった。
「魔法か……?!」
「奇跡だ……!」
驚きと歓声が、あちこちから湧き上がる。
オルシアがいたずら気な顔で、オレに目配せして小声で言った。
「魔法は日没とともに解ける。大魔法使いオルシア様から、素晴らしい村への感謝の気持ちだ」
「幻影なのか?」
「ああ。お前のその服も、魔法が解けたらパジャマだからな」
「えぇっ?!」
音楽とダンスに合わせ、花びらが舞う。
もしかしたらオルシアと二人、ずっとこの村で暮らすのもいいかもしれない。
両親の墓を守りながら、静かに老いて逝くのもいいかもしれない。
でもきっと……世界にはもっと、素晴らしい景色があるだろう。
この村を離れたとしても、両親の魂はオレたちを見守ってくれるだろう。今までもそうであったように、これからもきっと。
何処までも続く青い空を見上げ、オレは言った。
「明日から、新婚旅行に行こうぜ。色んなところを旅して……世界中に思い出を作ろう。そして、どこか気に入った場所に家を建てて、そこでずっと一緒に暮らそう、オルシア」
吹き抜ける風が花の香りを運ぶ。
君は薔薇の妖精の様に美しく微笑んで頷いた。
きっとこの日の光景は、誰にとっても忘れられないものとなるだろう。
オレにとっても、君にとっても。
きっと──……。
END
短い話のつもりで思いの外長かった(^^;)




