花まつり⑤
村にきて2日目。
何とか夜明け前に花冠を編み上げ、仮眠を取っていたオレは、外から聞こえてくる陽気な人々の声で目を覚ました。
村の朝は、夜明けとともに始まる。
必要な家事や作業を終え、今日も皆花まつりを楽しむのだろう。
「おはよう、ミド」
隣のベッドで、オルシアが目を覚ました。よく眠れたのか、いつになくスッキリした顔をしている。
そういえば、オルシアは化粧もしてないんだよな……化粧をしたら、今よりももっと綺麗になるのか?流石にそれは目が壊れそうだな……などと、くだらないことを考えていると、起き上がったオルシアがオレのほうに近づいてきた。
「どうしたんだ?あまりよく眠れなかったのか?」
「え?あ、ああ……いや、実はお前が寝た後に、もう一回マクゴワンと飲んでてな……」
「そうか。まあ、別に急ぐ旅でもないし、もう少し眠っていたらどうだ?」
せっかくの故郷だ。ゆっくりしていってもいいだろう。
と、オルシアが言う。
「いや……今日はやりたいことがあるんだ。オレはちょっと顔を洗ってくるから、着替えたら下に降りてきてくれ」
「そうか、わかった。ところで、花まつりの会場にいつもの黒ローブは合わないかなあと思ってたんだが、どんな服がいいと思う?」
「そうだなあ、お前なら別に何を着ても似合ってるけど……」
と、ふと考えて、オレは言った。
「いや、そうだな……たまには白がいいな。真っ白で、ふわっとしてて、ひらひらした感じの……」
「なんだ、やけに注文が多いんだな。まあいい、リクエストに応えてやるから、さっさと顔を洗ってこいよ」
必死な感じの説明が可笑しかったのか、オルシアは笑いながらオレを部屋から追い出した。
急いで階段を降り、顔を洗って、隠していた花冠を取り出す。
大丈夫、花も傷んでないし完璧な仕上がりだ。
「おはよう、ミルドレーン」
別の部屋から出てきたマクゴワンが、オレを見て笑った。
「いよいよ渡すのか?」
「ま、まあな」
「うまくいくといいな」
マクゴワンはそう言って、自分が作った花冠を持って家を出て行った。誰か渡したい女がいるのか聞いてみたが、亡くなった奥方の墓に備えるらしい。淡いピンクと黄色の花冠から、彼の愛した人がどんな女性であったのかが伺える。
オレは、いつかオルシアを置いて逝く立場だ。
カスミーロスの様に、本当に離れられなくなる前に、別れを選んだほうが彼女を傷つけずに済むのかもしれない。
それでもオレは君と進む未来を諦めたくはない。たとえそれが独りよがりな想いだとしても。
と、2階の寝室の扉が開く音がした。
オレはハッとして、思わず手に持ったものを後ろに隠す。
現れたオルシアの姿に、オレは言葉を失った。
見慣れた漆黒とは正反対の、純白のワンピース。フェミニンだが全体的にはシンプルなデザインが、長身の彼女によく似合っている。
窓からは柔らかな朝日が差し込み、階段を降りる彼女をまるで女神の様に照らし出していた。
「どうだ?リクエスト通りなるべくかわいいやつにしてみたぞ」
たまにはこういう女らしい格好もいいかもな。と、オルシアが笑う。
「オ、オルシア」
「ん?」
「これを……」
首をかしげる彼女に、オレは背後に隠した花冠を差し出した。
彼女の瞳の色と同じ深い紫色と、白い薔薇をあしらった花冠。
ぽかんとした顔で受け取って、オルシアが問う。
「お前が作ったのか?」
「ああ、オレは案外器用なんだぜ」
照れ隠しに頭を掻くと、オルシアはパッと輝くような笑顔を浮かべて花冠を頭の上に乗せた。
しまった、オレが被らせてやれば良かったな……と思ったが、心から嬉しそうな様子の彼女の姿に安堵して思わず口元が緩む。
軽やかに舞うようにくるりと一回転して、子供のような笑顔でオルシアは言った。
「似合うか?」
「ああ、最高だぜ。ところで、それを被ってくれたってことは、オレとダンスしてくれるんだよな?」
そうやって恭しく手を差し出すと、オルシアはそっとそこに手を重ねた。
「もちろんだ、ミド。でも、お前その格好で出かけるつもりなのか?」
そう言われて自分の格好を見てみると、最悪なことにうっかり寝巻のままである。
大慌てで着替えに戻ろうとするオレに、オルシアは仕方がないなあと笑ってぱちんと一回指を鳴らした。
途端に、寝間着が上品なブラウスとズボンに代わる。
「げ」
なれない格好に、オレは思わず呻いた。こういうのは、オレには似合わないんじゃないか?
しかし、オルシアは満足げに一つ頷いて言った。
「いいだろう?たまには。さ、行こうか」
まるでお姫様をエスコートする従者みたいだなと思いながらも、上機嫌なオルシアの様子に満足して、オレは外へ続く扉を開けた。




