花まつり④
村の夕暮れは早い。
摘み取った花をひとまずマクゴワンの家に預け、オレは彼と共に教会の裏手の墓地へ来た。
そこに立ち並ぶ名前のない墓標に、胸が締め付けられる。
あの日まで、みんな生きていた。みんな善良で、素朴な人たちだった。
マクゴワンによると、亡くなっていた場所からある程度推測できる者もいたが、火災のせいで誰だかわからない状態の遺体が多く、すべて無記名で埋葬したのだという。
この中のどれかが、オレの両親の墓なのだろう。
大好きだった村の人々と同じ場所にに埋葬してもらえたのだから、墓碑銘などなくてもきっと安らかに眠っているに違いない。
ただいま。と、心の中でつぶやくと、何処からともなく"おかえり"と声が聞こえたような気がした。
"ずっと待っていたんだよ"
と、懐かしい声が確かに聞こえた。
思わず涙ぐんだ時、ふと後ろから声がかかった。
「ミド」
振り返ると、全身に花を纏ったオルシアが立っていた。帽子にもたくさんの花が文字通り刺してある。きっと子供たちに貰ったのだろう。代わりに、もともと身に着けていた装飾品は一切無くなっているところを見ると、交換であげたのだろう。大抵、いつもそうやって身に着けている物が変わっていくのだ。
何故だかホッとした気持ちになって、オレは笑った。
父さん、母さん。彼女がオレの好きになった人だよ。
ずっと、彼女を紹介したかったんだ──。
「お帰りオルシア、楽しかったか?」
そう問うと、オルシアは頷いた。
「ああ、ここはとてもいい村だな。お前の故郷らしい、とてもやさしくて暖かい場所だ」
嫣然と微笑む彼女の言葉に、オレは柄にもなく気恥ずかしくなって鼻の頭を掻いた。
これじゃあ、またマクゴワンにからかわれてしまうじゃないか。
「オルシアさん、今日は是非ミルドレーンと共に私の家に泊まってください。旅の話を是非、私の息子にも聞かせてやってください」
「それは願ってもない。こちらこそ是非よろしくお願いします」
そうしてオレたちはマクゴワンの家に向かった。
先ほど集めた花は、オルシアに見つからないように隠してある。今晩は徹夜で花冠を編まないといけないなあ……と思いながら、傍らのオルシアに目を向けた。
「せっかく子供たちに貰った花だけど、明日まではもたないかなあ」
というより、既にほとんどバラバラになっているそれを、名残惜しそうに手に取る。
「だったら、花びらを風呂に入れるといいですよ。今湯を準備しますから、どうぞくつろいでいてください」
「へえ、それはいいな。ありがとう、マクゴワンさん。ああそれと、湯は沸かさなくても水のままで大丈夫です」
私は大魔法使いですから。と、オルシアはポッと指先に火を灯して見せた。
マクゴワンの息子リオンが、わぁと驚きの声を上げた。
「すごい、ぼく魔法初めて見ました!」
「もっといろいろできるんだぞ?例えば……」
と、オルシアは彼の手に「はい」と何か光るものを乗せた。
それは氷でできた小さな花で、数秒で儚く溶けて消えていった。
オレたちは旅の思い出話を聞かせながら夕食を取り、その日は早々に床についた。
……と思わせて、オルシアが眠ったのを確認してから大急ぎで今に戻り、男三人で悪戦苦闘しながら花冠作りに勤しんだ。
子供の頃に母と一緒に作ったきりだけど、案外覚えているものだなあと、オレは自画自賛しながらも、何処かで両親が見守ってくれているような気がして、気恥ずかしさに何度も頭を掻いた。




