花まつり③
懐かしい田舎料理に舌鼓を打ちながら、オレたちは互いにこれまでのことを語り合った。
オレが勇者カスミーロスと共に旅をしていたと話すと、マクゴワンはたいそう驚いた様子だった。伝説のドラゴン退治みたいなとんでもない偉業をやってのけたというわけでもないのに、あいつの名声はいったいどこまで広がっているのだろう。徹底して庶民の味方であったのはあいつ自身の都合によるところが大きかったのだろうが、やはりあいつは勇者と呼ばれるだけの男だったのだろうとオレは思う。
幸せにやっているだろうか、とオレは別れた友のことを想った。
「短い付き合いだったけど……オレはあいつを、一生の友だと思ってる」
オレの言葉に、マクゴワンは頷いてエールを一口飲んだ。
俺よりも少し年上の彼は、あの日一人親の使いで町まで子ヤギを売りに行っていた。近くの町といっても数日がかりの旅だ。山羊を売って戻って来た時には、村はすでに焼け落ちて、そこには誰も残っていなかったという。
「正直、村を捨てて何処かへ行ってしまったほうがいいだろうと思った。もしかしたら、運良く生き延びたやつはみんなそうしたのかも知れない。あれから20年以上経つが、戻って来たのはお前が初めてだ、ミルドレーン」
彼の言葉に、オレは何も返せなかった。オレのように遠くまで旅に出たものは、たぶんそう多くはないだろう。実際、オレは今まで一人も同郷の人間に出会うことはなかった。近隣の町や村まで逃れることができた運のいい者がいたとしたら、今のこの村の噂を聞いて、一度も戻ってこないはずがない。
きっと、マクゴワンも心の底ではそう思っているのだろう。オレの返事を待たず、彼は続けた。
「村を出ていくにしても、なんとかみんなの墓ぐらいは作ってやりたかったんだ。山羊を売ったばかりで手元に金もあったし、荒らされたとはいえ俺一人がしばらく生きていけるぐらいの蓄えは、みんなの家から見つけられたからな」
そうして一人、怒りを力に変えて彼は墓を作り続けた。墓を飾る花を集めているうちに、墓を守り、美しく保ち続けているうちに、いつしか彼の花園は大きくなり、やがて少しずつ新しい村人が集まってきたという。
懐かしい日々を蘇らせるように、村の建物の配置はできるだけかつての記憶に沿って決めた。
もう二度と踏み荒らされることのない、誰もが心奪われる花園を作ってこの村を守る……それが彼の生きる目標となった。村長として村をまとめ、季節ごとに花が絶えることが無いよう、さまざまな植物を研究した。そうして、中でも最も色とりどりの花が美しく咲き乱れる初夏のひと月を、花まつりの季節としたのだという。
それは、復讐のために人を殺す手段を身に着けようとした俺とは真逆の生き方だった。
どれほど困難な道だっただろうと、オレは心から彼を尊敬した。そして、彼が生きていてくれたことに心から感謝した。
彼がいなければ、ここに村はなかった。
全てが過去となって、野花の下に埋もれていただろう。
ふと、窓の外から子供たちの歓声が聞こえてきた。
それに続く、聞きなれた声。
「キャー!」
「待て待て~!」
まるで迷路のような花園を逃げる子供たちを追いかける、黒衣の魔女の姿。
帽子はどこへやってしまったのか、頭や首にいっぱいの花飾りをつけ、子供の様にはしゃぎまわっている。
やがて、一人の子供を捕まえて、自分の頭に飾られていた花を一輪その子の頭に挿した。なるほど、そういう遊びなのか。
思わずニヤニヤしながら眺めていると、マクゴワンが冷やかすように言ってきた。
「彼女はお前の恋人なのか?とんでもない美人だし、お前よりだいぶ若そうだが……」
実は年上なんだよなあ、しかも10倍も。と言ったら、彼はどんな顔をするだろう。
「いやぁ、そうなら嬉しいんだけどな」
オレは苦笑し、頭を掻く。
「なんだなんだ、もう2年も二人で旅をしてるんだろう?まさか気持ちも打ち明けてないのか?」
「打ち明けたさ、何回も」
でも、本気にしてもらえてないんだよな。
そう呟いてエールを一気にあおると、マクゴワンは先ほどまでのからかうような様子とは打って変わって、神妙な顔で言った。
「ちゃんと伝わるように言わないとダメだろ、ミルドレーン。時間っていうのは有限なんだ、大事にしろよ」
その言葉に、オレはハッとして彼を見た。
「いつまで一緒にいられるかなんてわからないんだぞ。オレの嫁さんも、共に白髪が生えるまで……なんて神に誓ったのに、一緒にいてくれたのはたった5年だったよ」
幸い、今は花まつりじゃないか。愛を誓うには、うってつけだぜ。
そんな彼の言葉に、オレはもう一度窓の外を見た。
どこまでも続く花園の中で、無邪気に笑う美しい人。
初めて出会ってから5年……変わらない君と、5年分老けたオレ。
「そうか、そうだよな」
小さくつぶやいたオレの言葉に、マクゴワンはまるでいたずらな少年の様に笑って、言った。
「よし、そうと決まれば花冠に使う花を選びに行くぞ!なに、花まつりの期間はこの村の花は摘み放題だ。遠慮せず選んでくれ」
急かされるように店を出て、改めて広大な花園を見回す。
最後に花冠を作ったのはいつだろう。
あの頃、花なんて白爪草ぐらいしかしらなかった。
いや、今も花の名前なんて全然知らないけれど……。
でも、君に送りたい花が一つある。
決意を込めて、オレは歩き出した。




