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WITH THE WIND  作者: レエ
本編
37/66

花まつり②

 新クローベル村。

 村の建物はオレが過ごしていたころのものとは違っているが、家の区画や道、教会や井戸の位置が確かに記憶の中と同じで、オレはまるで夢を見ているような気持になった。

 かつて俺の家があった場所にも、新しい家が建っていた。思わず立ち止まって見ていると、中から兄妹と思われる子供が頭に花飾りをつけて走り出てきた。それを追うように出てきた若い母親。その幸せそうな光景を見て、オレは胸が締め付けられるような気持になった。

 オレの母も、当時まだこのぐらいの歳だったんだ。

 ずっと年上の大人だと思っていたのに、今の俺と同じか少し若いくらいの、素朴で優しい女性だったんだ。

 目が合ったオレを不審がることもなく、ぺこりと会釈をして子供たちを追ってゆくその頭にも、見事な花冠が乗っている。きっと彼女の夫が作ったのだろう。濃い茶色の髪に、オレンジと白の花がよく似合っていた。

 少年に案内されて辿り着いた場所は、かつての村役場だった。

 村の中央にあるその場所には大勢の村人が集まっており、陽気な音楽に合わせて子供から老人まで手を取り合ってダンスを踊っていた。中には旅人のような服装のものや、絵筆を持った画家の姿も見える。これだけの景色だ、きっと近隣の村や町でも話題になっているのだろう。オレは長く故郷のことに触れないようにしてきたことを少し後悔した。もちろん、少しというのは、この村を後にしていなければ……この村に帰りたいともっと早く思ってしまっていたら、オルシアたちと出会うこともなかっただろうからだが。

 村の人々に囲まれて忙しそうにしているその中心に、見覚えのある顔があった。

「父さん!」

 少年の声に、男が振り返る。

「マクゴワン……?」

 思わずそう呼びかけると、男は驚いたような顔をしてオレをまじまじと見た。

「マクゴワンなのか?オレは、ミルドレーンだ。23年ぶりに……今帰った」

「……ミルドレーン? 本当に……?」

 周りの人をかき分けるように走り寄ってきた男は、オレの肩を両手でがっしりとつかんで、叫ぶように言った。

「ミルドレーン!確かに面影がある!まだほんのガキだったのに、無精ひげなんて生やして……!」

 それから先は二人とも言葉にならなかった。

 いい歳をしたオッサン二人が、髭面を涙で濡らしながら抱き合って声をあげて泣いているさまなんざ誰も見たくはなかったと思うが、言葉にはできない色んな思いがこみ上げてきて、どうすることもできなかったのだ。

 ひとしきり泣いたら、今度は笑いがこみ上げてきた。お互いに意味もなく相手の方やら背中やらを叩きまくりながら爆笑し、お互いの手をがっしりと握る。

「よく戻って来た、ミルドレーン」

「会えて嬉しいよ、マクゴワン」

「ところでそちらの方は?」

 マクゴワンに問われて、オルシアのことをすっかり放置してしまっていたことに気づいた。

 旅の間に大方入れ替わったとはいえ、相変わらず意味の分からない子供じみた装飾品を身に着けまくった、黒づくめの女。どう見ても怪しいことこの上ない。しかし、その奇妙な出で立ちに引かれるのか、彼女の周囲にはすでに大勢の子供たちが群がってきていた。

「ああ、こいつは……」

 オレが紹介しようとするのを遮るように、オルシアが鍔広の帽子をとり、妙に恭しい仕草で一礼した。

「私はオルシア、魔法使いです」

 艶やかな一凛の薔薇の様に微笑むその美貌に、マクゴワンは唖然として大口を開けたまま言葉を失った。

 いや、彼だけではない。周囲の人間も皆一様に彼女に釘付けになっている。

 そんな周囲の様子を気にするそぶりもなく、オルシアは再び帽子をかぶり直して言った。

「ミルドレーンと共に旅をしている者です。どうぞよろしく」

 差し出された手を、マクゴワンは恐る恐るといった様子で取って、無言のまま大きく3回縦に振った。

「ミド、積もる話もあるだろう。私はしばらく一人で村を見学してくるよ」

 そう言ってオルシアは軽くウィンクしてから踵を返した。歩き出した魔女の後ろを、子供たちがぞろぞろとついていく。保護者から見たら少々心配な光景だろうが、もちろん危険なんてあるはずがない。実際ほんの少し歩いたところでマントの端を引っ張られて足を止め、子供たちに取り囲まれながら近くのベンチに腰を下ろした彼女の姿を見て、オレはまたはじまったか、と笑った。

「おいマクゴワン、いつまでも呆けてないで色々話を聞かせてくれよ。どこか落ち着ける場所はないか?」

「あ、ああそうだな、すまなかった。おいリオン、父さんはしばらく席を外すから、あとのことは頼むぞ」

「うん、まかせてよ」

 先ほど案内してくれた少年が、嬉しそうに頷く。

 まだ14,5歳だろうが、しっかりした良い息子だ。

「じゃあ、行こうか。旨いものをおごるよ」

 そうして、マクゴワンに案内されて、オレは村唯一の小料理屋へ向かった。

 爽やかな風と共に甘い花の香りが吹き抜ける。

 空はどこまでも遠く青く晴れ、この世に果てなど無いと語りかけてくるようだ。

 人々の笑いあう声があちこちから聞こえ、丘には白爪草を食む子ヤギたちの姿が見える。

 平和そのものの美しい光景に、まるで天国みたいだなと、オレは思った。

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