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WITH THE WIND  作者: レエ
本編
31/66

夢路の果て③

「……彼女、本当にカスミーロスのことが好きなんだな」

 オルシアが、ぽつりと言う。

「俺は……カスミーロスを吹き飛ばした」

 オルシアの瞳から大粒の涙が触れた。

「カスミーロスが気を失って倒れてるところなんて、今まで見たことない……」

俺はそう言って俯く彼女の頭を軽く撫で、言った。

「そんなこといわれたら、オレはお前に助けてもらったことを後悔しないとならないじゃないか」

「あ……ごめん」

「謝ることはないよ、お前は結果的に全員を生かしたんだ。最高の結果だろ?正直、俺はもうだめだと思ってたからな。こうやって、まだお前と話せて、本当に良かった」

「うん……」

「カスミーロスは大丈夫さ。これくらいで死ぬようなやつなら、今まで生きてねぇよ」

「……そっか」

「だから……ありがとうな。オルシア」

「ミド……お前はいつも、優しすぎるよ」

 包帯を巻き終え、破れたローブの合わせ目にいくつか穴をあけ、ありあわせの紐をとおして結び合わせてやると、オルシアはようやく落ち着いた様子で小さく微笑んだ。その肩にオレのマントをかけてやり、オレはギルドでもらった救助要請のための狼煙をあげた。それはこの国の騎士団専用の狼煙で、もちろん悪党を呼び寄せてしまう危険性もなくもないが、砦まであとわずかというこの距離なら、真っ先にそこの連中が駆けつけてくれるはずだ。

 十数分後、騎兵5名と馬車が一台、オレたちの元に届いた。彼らは、俺たちが廃品を受け取りに来た冒険者であり、しかも倒れている男が勇者カスミーロスであると知ると、妙に敬服した様子で、俺たちを馬車に乗せて砦へ戻り、すぐに魔導師が治癒の秘術を施してくれた。

 おかげでオルシアの傷もすっかり綺麗に直り、ユリューサの混乱も程なく回復したが、ただカスミーロスの意識だけがなかなか戻らず、砦全体に暗いムードが漂うことになった。

 命に別状はないし、骨や内臓にも損傷はないが、頭を打っている可能性があり、しばらく様子を見なければならないと言う。

 オルシアもユリューサも、はじめはすっかり落ち込んでおり、オレはかける言葉も見つからずに悶々としているだけだったが、カスミーロスの意識が戻らないまま2日、3日と過ぎると、さすがに皆苛立ちはじめ、4日目、それはとうとう爆発した。

 どちらから先に始まったかはわからないが、オレが用を足しに行っている間に、オルシアとユリューサが喧嘩をはじめたらしい。カスミーロスが寝ているその部屋から、廊下まで響き渡ってくるヒステリックな叫び声はもうほとんど意味不明だったが、どうやらユリューサのほうはオルシアがカスミーロスを殺そうとしたのだと主張し、オルシアのほうはオルシアのほうで、そもそもユリューサがあの花に触らなければこんなことにはならなかったと主張しているようだ。

「うるさいぞ!」

 オレは扉を開け、そう二人に一喝した。

「お前らが喧嘩してたら、カスミーロスだって気まずくて起きるに起きられないだろうが。イライラするのはわかるけどな、責任擦り付け合ってもしょうがないだろ。オルシアの魔法のせいでカスミーロスが気を失った、でも、そうしなければオレもオルシアもユリューサも、カスミーロスさえとっくに死んでたかもしれない。ユリューサが花に触ったせいで事件が発生した。でも、ユリューサはまさかそんなことになるなんて知らなかったんだから仕方がない。そんなこと、二人とも自分でわかってんだろ?それに、あの花がここにあるかもしれないことを知っていて警告を忘れてたオレやカスミーロスにだって責任がある。たまたま不運が重なってこういう結果になっただけだろうが。もしカスミーロスが目を覚ましたとき、まだお前らがつまらん責任の擦り付け合いをしていてみろ、カスミーロスのことだ、きっと一番自分のことを責めるに違いない」

 オレの言葉に、オルシアとユリューサは一旦顔を見合わせ、すぐに気まずそうに目をそらしてうつむいた。二人とも、カスミーロスのことがとても大切で、心配でたまらないだけなのだ。誰かに八つ当たりしなければ、自分自身が後悔で押しつぶされそうになってしまうのだろう。

「くだらないことにエネルギー使うなら、カスミーロスが早く目覚めるようにそのエネルギーを祈りにでも捧げてろ」

 そういってみたものの、これ以上カスミーロスが目を覚まさなければ、本当に二人の精神が参ってしまうだろうことは容易に想像できた。

 頼むから、目を覚ましてくれよカスミーロス。

 いつまでも女二人を泣かせておくなんて最低だろ?

「ごめんね、ユリューサ」

 と、オルシアが言った。

「いいえ……私のほうこそ、ごめんなさい。あなたは何も悪くなんかないわ」

「あんたのせいでもないよ。そうだな……あんなとこに生えてた花が悪い。だって、生えてなけりゃ何も起こらなかったし。まったく、あんなところに生えやがって。いい迷惑だよな」

「そうね、まったくだわ。幻の花なら、あんな道沿いに咲くものじゃないわよね」

 二人は顔を見合わせ、カスミーロスの傍らに座り、それぞれ左右の手を取った。 

 と、そのときだった。

 カスミーロスがかすかな呻き声を上げたのだ。

「カスミーロス!」

 オレたちは、三人同時に叫んだ。

うっすらと、目を開くカスミーロス。

 笑顔なのか泣き顔なのか良くわからない顔で、オルシアとユリューサが必死でカスミーロスに呼びかけている。

「みんな……無事だったのか。よかった……」

 そういって微笑んだカスミーロスに、不覚にもオレも泣けてきた。

「まったく、両手に花状態で目を覚ますとはいかにもお前らしいじゃないか?心配させやがって、このバカヤロウ!」

「あなたが気を失って今日でもう4日目なのよ、カスミーロス。怖かったわ。私、もうあなたが二度と目を覚まさないんじゃないかと……」

「カスミーロス、ごめんな。憶えてないと思うけど、俺がお前を魔法で吹き飛ばしちゃって……大丈夫?まだどっか痛む?」

 オルシアの言葉に、カスミーロスははっとしたように急いで上体を起こし、オルシアの肩を両手でつかんだ。

「わ、こら、急に動いちゃダメだろ?!」

「オルシア、体、大丈夫なのか?!怪我は?!」

「え……?」

「だって……確かに僕は、君をこの手で……」

 青ざめ、微かに両手を震わせるカスミーロスに、思わず憶えているのかと問いそうになった、その瞬間。

「やだなあ、何言ってんの?」

 アハハハと明るく笑って、オルシアが言った。

「変な夢でも見たんじゃないの?俺は見ての通りピンピンしてるけど。殺されそうになったのはお前のほうだろ。もう、いくら寝すぎたからって寝ぼけすぎ。なんか食って目ぇ覚ましたほうがいいんじゃない?ここの人たちにも報告しないといけないし、俺、なんかもらってきてやるよ。お前はもうちょっと横になってな」

 オルシアはそういってカスミーロスを再びベッドに横たえさせ、一人部屋を出て行った。

「……本当に、何もなかったのかミルドレーン?」

 カスミーロスの問いに、オレは答えた。

「お前は花粉の毒による幻覚症状を起こしてたからな。オレに襲い掛かってきたお前を止めようとして、オルシアがつい魔法をぶっ放しちまったってだけの話だ」

「……そうか」

 そう呟き、カスミーロスはまだ震えている自分の両手を見つめ、拳をぎゅっと握り締めた。

 もしかしたら、カスミーロスはオルシアを切り殺してしまったと思っていたのかもしれない。そしてもしそれが本当だったらと思う心が、目覚めることを拒否していたのかもしれない。

 心のどこかで、こいつだけは絶対に何にも負けることがないと信じていたはずのカスミーロスが、何故だか急に力なく頼りなげに見え、その場にいることが居たたまれなくなったオレは、オルシアを追って部屋を逃げ出した。


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