暗影④
盗賊団を町へ連行し、人々の大歓声と多額の報酬を貰った数日後、僕たちはギルドマスターから、ある衝撃的な事実を聞かされた。
「……なんだって?!」
「ああ、取り調べた治安官の話じゃ、捕らえられたやつらはすべて血縁者のようだ。ボス夫婦の子供から孫まで、ほとんどが兄弟姉妹間の近親婚で生まれた一つの家族で構成されてるらしい。まあ、中には拉致された女の子供もいたかも知れんが……とりあえず今生き残ってるやつの中にはそういうやつはいないらしいって話だ。まったく、信じられんことだがね」
「……身内の者、と言うのは言葉通りの意味だったのか」
「ああ、でもな、そんなことで驚くのはまだ早いぜ。あの老夫婦、調べてみたら実はなんとあの伝説の義賊エルフィスとディヤーヌだっていうんだよ」
「!?」
エルフィスとディヤーヌといえば、数十年前ギルドで活躍していた二人組みの名前である。殺しやモンスター退治の仕事よりも秘宝の探索や機密文書などの回収に優れた、いわゆるシーフのコンビであった。明るくお調子者のエルフィスと、世の男たちの羨望の的だったという美女ディヤーヌは、何やらやばい仕事に失敗してそのまま行方知れずになったらしい。当時のギルド内でも人気者で、決して悪のために力を使わないということもあり、人々からはある種カリスマ的な扱いを受けていて、彼らの失踪後には二人をモチーフにした物語も作られるなど伝説的な存在と化していた。
「まさか、そんなことが……」
僕たちはそのまま言葉を失った。
エルフィスとディヤーヌが一体どんな重大なミスをやらかしたのかはよく知らないが、その為に今まであんな廃村に身を潜め、他人を襲って生活していたなどと……一体どんな心境だったのだろう。僕なら、きっとそんな惨めな境遇に陥るぐらいなら、自から命を絶つに違いない。
でも何か一歩間違って、自殺さえできずに泥沼にはまってしまったら……僕だっていつ同じような運命に陥らないともわからない。
そう、もし僕がエルフィスで、オルシアがディヤーヌだったとしたら?僕は一人死を選んだり、あるいは彼女を道連れにしたりできるだろうか?二度と日の光の下を歩けなくなっても、このまま共にいられるなら……そう、そのためになら神にだって、逆らう覚悟をするかもしれないじゃないか。
かつての英雄が、これほどまでの凶悪な殺人グループの頭になっていた。
曲がりなりにも勇者として名の知れている僕にとって、この事実は重かった。
いつか自分も……そんな考えが浮かんできては、暗い闇が心を浸食していく。
何か大切なものが壊れてしまうような気がして、僕は思わず身震いした。
「彼らの処分が決まる前にこの街を出よう。結果を聞くのは、とても耐えられそうもない」
そういった僕の表情は、きっと疲れ果てていただろう。
誰も何も言わず、ただ頷いただけだった。
それから数ヵ月後、彼ら一族が国に身柄を引き渡され、女子供に至るまですべて処刑されたという情報を、旅先のギルドの掲示板で確認した。
僕たちの間でその事件が話題に上ることは、その後二度となかった。
END




