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WITH THE WIND  作者: レエ
本編
27/66

暗影③

 僕たちはオルシアの幻影魔法で行商人に成りすまし、森の中を進んでいった。僕が荷馬車を引き、荷台にはオルシアとユリューサ。そして、盗賊の目には何かしら魅力的な積荷が見えるはずだ。馬車の護衛のギルド員役はミルドレーンである。

 ユリューサの家族が襲われたあたりはわざとはずし、僕たちはゆっくりと進んでいった。普通、夕方から夜の間のほうが盗賊は出没しやすいのではないかと思うが、獲物に姿を見られないように……という配慮の必要ないこの虐殺団は、むしろ獲物の現れる確率の高い日中に出没することが多いらしい。

 一時間半ほど進んだところで、ようやく空気に変化が現れた。

 徐々に徐々に、輪のように気配が集まってくる。

「お出ましのようだな……」

 と、ミルドレーンが呟いた。

「オルシア、頼むよ」

「了解」

 馬車を止め、オルシアとユリューサが荷台から降りる。盗賊団の目には、馬車の車輪が壊れたようにでも見えただろう。

その瞬間、立ち並ぶ木々に巧みに姿を隠していた盗賊たちが、いっせいに踊りかかってきた。敵は思ったよりも少数……六人組みだ。もっとも、周りにはまだ待機している連中もいるのかもしれないが。

「きゃあぁ!」

 ユリューサが悲鳴を上げる。当然といえば当然だが、やはり戦力にはなりそうも無い。

 剣を振るい、早々と一人を切り殺す。隣ではミルドレーンも、敵の首を一つ晴れた空高く跳ね飛ばした。

 思わぬ反撃に合い、盗賊団は一瞬怯んだが、すぐにターゲットをかえ、ユリューサと彼女のそばにいたオルシアに、四人の攻撃が集中する。

「やれやれ、見くびってもらっちゃ困るなぁ~」

 オルシアは余裕綽綽である。しかし、敵に向かって突き出した右手から青い炎の塊を発射しようとしたその時、予想もしなかったことが起こった。

「きゃあぁぁ!」

 敵の攻撃が一斉に自分に向かってきたことにパニックを起こしたユリューサが、オルシアの背にしがみついてしまったのだ。

「うわっ」

 思わずよろめいたオルシアの魔法は狙いを外し、敵を掠めはしたものの大したダメージにはならなかった。

「おい、ユリューサ放せ!危ないぞ!」

 無下に払うことも出来なかったのだろう、オルシアが叫んだ。

「放してくれユリューサ!殺られる!……うわあぁ!」

 さすがのオルシアの声も悲鳴に変わった。ミルドレーンが持っていたトマホークを、今にも彼女たちを切り殺そうとしている相手の頭めがけて投げつけた。が、それよりも少し早く駆け寄った僕の剣が、敵を横から切り倒した。鮮やかな血しぶきがあがる。ミルドレーンのトマホークが僕の顔の横を通り過ぎ、くずれおちる敵の頭に突き刺さった。

 振り向きざまに、もう一人の敵を切り殺したところで、残った最後の一人に僕は言った。

「帰って仲間に伝えるがいい。近く、カスミーロスが、お前たちを皆殺しに行く……とな」

 その言葉に、盗賊は後ずさりし、背を向けて走り去ってゆく。

「……追うぞ」

 その合図とともに、僕たちは一斉に敵を追って移動をはじめた。



 途中、やはり何箇所かに待機していた敵を薙ぎ倒し、僕たちは常に一人の敵を残して追いながら、とうとう数キロ離れた森の奥深くへとやって来た。

 あたりは暗くなりはじめている。

「大丈夫か?オルシア」

 さすがに疲れた様子のオルシアに、僕は声をかけた。

「ああ、大丈夫。ちょっと水くれる?」

 差し出した水筒の中身を一口飲んで、オルシアはほっとしたように笑った。

「ありがとう。……ここまで来たらもうすぐだな」

 ほどなくアジトらしきところにたどり着きいたが、その意外な光景に僕たちは少し驚いた。小さな廃村が、いつしかそのまま盗賊の巣窟となっていたのである。

「2~30人はいそうだな」

 木陰に身を隠しながら、ミルドレーンが言った。

「どうする?女連れで乗り込むのか?」

「そうだなぁ……ユリューサ、君はオルシアと二人でどこかに隠れていたほうがいい」

 しかしユリューサは、僕のマントを握り締めたまま首を横に振った。

「……じゃあ、絶対にそばを離れてはいけないよ。もし守りきれなかったとしても、僕を恨まないでくれ。ミルドレーン、オルシアのことは頼む」

「了~解。まったく、命知らずなことだな。勇敢なのは結構だが、他人を巻き添えにしないでくれよ」

 ミルドレーンはあきれたように肩をすくめて嫌味を言った。きっと、先ほど彼女の行動でオルシアに危険が迫ったことが気に入らないのだろう。確かにもう少し運が悪かったら、オルシアはさっきユリューサのせいで死んでいたのかもしれないのだ。

 だが、当のオルシアは、そんなことはまったく気にしていないようである。

「そう怖い顔するなよミド。心配なのはわかるけどさ、家族の仇討つチャンスじゃないか。せっかくここまでついてきたんだし、カスミーロスが守ってくれるんなら大丈夫だよ」

「オレはカスミーロスがこの女に抱きつかれて、そのせいで死んだりしないか心配でね」

「ハハハ、まさか。俺はともかく、カスミーロスがそんなことでピンチになるわけないじゃないか」

「……」

 若干緩んでしまった緊張感を取り戻すように一度目を合わせて頷きあい、僕たちは一気に敵のアジトへと突っ込んだ。僕はユリューサを守りながらの為応戦が主となってしまうので、人質の救出はオルシアとミルドレーンに特攻を任せる。

「黒焦げになりたくなかったらどいてろ」

 オルシアは妖艶な笑みを浮かべながら敵に電撃を食らわせた。オルシアの魔法の威力はいつも適当でいいかげんだが、おそらくショックで気を失わせるのに程よい強さになってるに違いない。その気になればこんな廃村など一瞬にして炎の海にできる魔力を持つオルシアだが、彼女は極力人を殺したくはないようだ。

 盗賊のアジトは軽いパニック状態に陥った。

 オルシアが守りを固めている男たちを建物の戸ごと派手に吹き飛ばし、ミルドレーンが建物内へと急行する。僕も次々に襲い掛かってくる盗賊たちに応戦しながら後を追い、そして、すぐに追いついた。

 ミルドレーンとオルシアは、アジトに突入し、数歩のところで立ち尽くしていた。

 中にはさぞ凶悪なボスがいるのだろう……僕たちはそう思い戦いを覚悟していたが、意外なことに、中にいたのは小さな……まだホンの赤ん坊といった年齢の子供が数人と、その母親と思われる若い女が二人。そして奥の椅子に一組の老夫婦が背を向けて座っているだけだった。

「……?」

 一瞬人質になった人々かと思ったが、ナイフを振り上げて襲い掛かってきた女の姿に、僕らはハッとして戦闘態勢をとる。しかし……


「やめい!」


 重い恫喝が響き、女は静止した。

「諦めろ、わしらの負けじゃ」

 老人の言葉に、老婆がヒステリックな泣き声をあげてその場にへたり込んだ。

 察するに、どうやらこの老人が盗賊団の大ボスらしい。

 老人はゆっくりと立ち上がり、同じようにゆっくりと僕たちを振り返った。杖が無ければまともに立っていることもできないような、かなり老齢の男だった。

「……カスミーロスか。孤高の勇者が仲間を作ったと、以前噂で聞いたような気もする。お前たちがそうなのか……」

 老人はどこか感慨深げにそう言った。

「……観念しよう。このアジトにいるものはみなわしの身内のものじゃ。今は人質など一人もおらん。そんなものを飼っておく余裕はわしらには無いのでな……」

 罠でもあるのではないかと思ったが、ボスが降参したことを知った盗賊団は、意外にもほとんど抵抗することも無くあっさり全員が降伏した。

 数は半数ほどに減っていたが、それでもまだ十数人、女子供を含めると20人を越える者を捕らえることになった。女や子供が人質ではないとすると盗賊たちの妻子なのだろうが……この盗賊団には、ただ単に人数が多いと言うだけではない、何か異様な雰囲気が感じられた。

 幼い子供と、乳児を抱いている女を除いて全員を縛り上げ、老ボス夫婦と女子供は馬車の荷台にのせ、男たちは徒歩で町まで連れて行くことになった。

 盗賊はどうせどうせみんな縛り首になるのが落ちなんだから、いっそ数を減らしてしまえばいいのではないかと提案したが、意外なことにミルドレーンが反対した。生きて捕らえられるものをわざわざ自分たちの手で殺すこともないし、子供たちの目の前で親を皆殺しにしてしまう勇気は無いという。そもそも皆殺しにするつもりで来たのだから相手の事情など関係がないと思うが、甘いのか冷たいのか、よくわからない男だ。

「ユリューサはそれでいい?」

 親の仇を取りたかった彼女は不満なのではないだろうか。

 僕はそう思ったが、ユリューサは青ざめた顔で小さく頷いて言った。

「もう十分です。もう、十分……」

 微かな声は、吹き抜ける強い風にかき消された。

 祈るように手を組んだユリューサの、解れた柔らかな金髪が静かに揺れる。

 それきり僕らは黙ったまま、何処か陰鬱とした気持ちで帰路についた。

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