ある戦士の死①
ギルドの掲示板には、毎日のように冒険者の訃報と、行方不明者の情報を呼びかけが更新されている。最も行方不明になった冒険者は、その半数以上がいずれ訃報情報を掲載した掲示板に移動することになるのだが、それでも生死がわかっただけ幸運というべきかも知れない。
僕は普段はそんな情報をいちいちチェックしたりはしない。他の冒険者の生き死になどに興味はないし、高名な冒険者の情報なら、そんなものをチェックしなくとも自然に耳に入ってくるものだ。関心があるとすれば、僕と僕の仲間の名前が、そこに載らないように注意することくらいである。
だが、僕は初めてその掲示板をチェックせずにはいられなくなった。
そして何度も確認する、行方不明者欄に載った、一人の男の名を……。
『ジャワマコート/ランクA/魔法剣士/タ・マレイの森のモンスター退治を請け負った後、行方不明となる』
ジャワマコート。
僕がまだ駆け出しの冒険者だったとき、一度だけ共に力を合わせて戦った冒険者である。その時彼はちょうど今の僕と同じくらいの年齢だったから、今は30代半ばの齢になっているはずだ。一見女性にも見えるような優しげな容姿の持ち主で、いつも笑顔を絶やさない男だったが、当時すでにAランクに属していたその腕は僕にはまさに神業に見えたほど優れたものだった。
人好きのする好青年であるにもかかわらず、仲間を持たない一匹狼の冒険者だったジャワマコート。未熟な僕は、彼から教えられたことがたくさんあった。言うなれば、このギルドにおいての師……たとえあれから一度も会っていないにしても、その名を忘れたことは一度もない。
そのジャワマコートが、行方不明になった。
ギルドに集まった冒険者たちの、何気ない日常の噂話に、これほど動揺させられたことがあっただろうか。僕は真実を確かめるべく掲示板へと走り、そこでその情報を見てしまったのである。
「大丈夫か、カスミーロス」
ミルドレーンが、後ろから声をかけてきた。いったい何事がおきたのか、彼にはすぐに理解できたことだろう。
「知り合いか?」
「……ああ」
僕は振り返らずに短く答えて、軽く何かを振り払うように頭を左右に振った。
「これは、きっと……何かの間違いだ」
こんなことが、あっていいはずがない。
「どうかしたの?」
事態が飲み込めないらしいオルシアは、それでも僕に遠慮してか、小声でミルドレーンにそう訊ねていた。
「カスミーロスの知り合いが、行方不明になったらしい」
「行方不明に?」
そう聞き返したオルシアの声は、先ほどのように小声ではなかった。
「じゃ、捜しにいこうぜ」
あっけらかんとしたその言葉に、僕は思わず振り返った。その不幸など知らぬげな明るい笑みに出会わなければ、僕はオルシアに罵声を浴びせていたかもしれない。
オルシアは言った。
「何かの間違いなんだろ?」
「し、しかし……」
もし、捜しに行って、決定的な死の証拠を見つけてしまったら?
それなら、このまま行方知れずのほうが、まだ希望が持てるのではないか。
「今捜しに行けばもしかしたら助けられるかもしれないのに、見捨ててあとで後悔するのか?そんなの、俺はいやだけどな」
「オルシア……」
「大丈夫さ、カスミーロスが何かの間違いだって思うんなら、それは確かに間違っているんだろう。でも、カスミーロスがホントだって思うんなら、そいつはきっと助からないだろうな」
強気な言葉と、微笑み。オルシアのこの絶対の自信は、きっといつものように根拠のないものだろうが、それでも僕に勇気を取り戻させるには十分だった。
「そうだな。急いでタ・マレイの森へ向かおう。この町からだと、2~3日はかかるだろうから、まず準備を整えなければね」
「じゃ、早速買い出しに行くか」
僕の背をパシッと叩いて、オルシアは明るく言った。この無邪気さに、僕はどれだけ救われていることだろう。
たとえ何を失っても、この笑顔さえあれば僕は立ち上がることができる。
先だって歩き出した黒衣の背を見ながら、僕は心の中で「ありがとう」と呟いた。




