微睡み②
「オルシア!!」
叫ぶような声に、ハッとして目を開いた。
目の眩むような光が視界に満ちて、一瞬、何も見えなかった。
……ここは?
労しげな、優しい眼差し。
「カスミーロス……?」
「よかった、ずいぶんうなされていたみたいだったから……」
うなされて……?
そう言われて良く周りを見てみると、確かに見覚えのある宿の風景。
窓からは、強い午後の光が差し込み、ベッドを明るく照らしていた。
傍らには、読みかけの本……。
そうか、いつの間にか、眠ってしまっていたんだな。
「大丈夫か?」
そう言って水を差し出してくれる、大きな……暖かい手。
「ミド。すまない……ありがとう」
こいつ……意外と気が利くんだな。
渇ききった喉に、水の冷たさが心地よかった。
なんだ、よかった。
みんなここにいるじゃないか。
「夢を見ていたの、か?」
一息ついて、俺は問う。
「よっぽど怖い夢だったみたいだね。起こしても、なかなか起きてくれないし……もう、大丈夫?」
「……ああ、心配をかけて、すまなかった」
そういえば、何の夢を見ていたんだっけ?
どうしてだろう、思い出せない……。
「オルシア……ホントに大丈夫か?顔色も悪いし……どっか、具合が悪いんじゃないのか?」
「ミド……。いや、別に……大丈夫だ。何処も悪くない」
「ならいいけど、なんつーか、らしくないぜ。お前がその……泣いてる、なんてな」
「え……?」
泣いてる?
そんなに、怖い夢だったのか。
いったい、何の夢だっけ?
ダメだ……全然思い出せない。
「何かお腹に入れるかい?」
気遣わしげな、カスミーロスの声。
「あ……オレ、なんか持ってくるよ」
そう言って、すかさず出口に向かおうとする、ミルドレーン。
優しいんだな、二人とも。
大好きな……私の仲間。
私の友。
私の……
「いい、何も要らない」
今は、二人に傍にいて欲しい。
「頼む、ミド、行かないでくれ。二人とも、もう少し傍にいてくれ」
何で、こんなに心細いんだ。
たかだか、おかしな夢を見たくらいで……どうかしている。
「わかった。ここにいるよ」
「ああ、オレも、何処にも行かない」
ああ、よかった。ありがとう……。
「……聞いてもいいかな?」
遠慮がちな、カスミーロスの問い。
「……何だ?」
「うん……どんな夢を見たのかと、思ってね」
「……何か言っていたか?」
「いや。ただ、酷いうなされ方だったから……何か、悩み事でもあるんじゃないかと」
「悩み……」
悩みなんてない。
こんなに幸せなのに……悩みなんてあるはずがない。
「……わからない。目が覚めたとたん忘れてしまった。何か、モヤモヤとした不快感はあるけど……内容は全く思い出せない」
そう、悩みなんかない。
だが、なんだろう。この……消えない不快感は。
不安……?
わからない。俺は今、こんなにも幸せじゃないか。
「そうか。まぁ、やなこと早くは忘れちっまたほうがいい」
いつになく神妙な、ミドの声。
そんなに、心配してくれるのか。
なんか、情けないな。
早く……早く、笑わないと。
「もう、気にするな」
「……ああ。でもなんか……何でかわからないけど……」
「けど?」
「嫌な夢を見たことより、その内容を思い出せないことの方が……なんだか、寂しいような気もしたんだ」
そう、それが悲しいんだ。
何故なのか……何も思い出せないけれど。
「……そうか」
「ああ」
「でも……それは所詮夢だ。いつまでも気にするようなことじゃないぜ」
「……そうだな」
「嫌なことがあったら、甘えていいんだよ」
「そう、せっかく、オレたちがここにいるんだしな」
うん……そうだな。
どんな悪夢を見ても……目覚めれば仲間がいてくれる。
それ以上に、幸せなことなんて、俺には想像もつかないよ。
「元気でたか?」
まだ少し心配そうなその声に、めいっぱい微笑みを返す。
「ああ、おかげさまで。……気分転換にシャワーでも浴びてくる」
「うん、待ってるよ」
「……っと、落ち着いたら腹も減ってきたな」
「ははは。おやつの用意でもしておこう」
「うん……じゃ、またあとでな」
そういい残して、俺はシャワー室へと向かった。
もう、この不確かな気持ちに怯えるのはよそう。
今は、あの気のいい仲間たちのことだけを考えていればいい。
この、大切な現実だけを……見つめて。
END




