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WITH THE WIND  作者: レエ
本編
12/66

微睡み②

「オルシア!!」

 

 叫ぶような声に、ハッとして目を開いた。

 目の眩むような光が視界に満ちて、一瞬、何も見えなかった。

 ……ここは?

 労しげな、優しい眼差し。

「カスミーロス……?」

「よかった、ずいぶんうなされていたみたいだったから……」

 うなされて……?

 そう言われて良く周りを見てみると、確かに見覚えのある宿の風景。

 窓からは、強い午後の光が差し込み、ベッドを明るく照らしていた。

 傍らには、読みかけの本……。

 そうか、いつの間にか、眠ってしまっていたんだな。

「大丈夫か?」

 そう言って水を差し出してくれる、大きな……暖かい手。

「ミド。すまない……ありがとう」

 こいつ……意外と気が利くんだな。

 渇ききった喉に、水の冷たさが心地よかった。

 

 なんだ、よかった。

 みんなここにいるじゃないか。


「夢を見ていたの、か?」

 一息ついて、俺は問う。

「よっぽど怖い夢だったみたいだね。起こしても、なかなか起きてくれないし……もう、大丈夫?」

「……ああ、心配をかけて、すまなかった」

 そういえば、何の夢を見ていたんだっけ?

 どうしてだろう、思い出せない……。

「オルシア……ホントに大丈夫か?顔色も悪いし……どっか、具合が悪いんじゃないのか?」

「ミド……。いや、別に……大丈夫だ。何処も悪くない」

「ならいいけど、なんつーか、らしくないぜ。お前がその……泣いてる、なんてな」

「え……?」

 泣いてる?

 そんなに、怖い夢だったのか。

 いったい、何の夢だっけ?

 ダメだ……全然思い出せない。

「何かお腹に入れるかい?」

 気遣わしげな、カスミーロスの声。

「あ……オレ、なんか持ってくるよ」

 そう言って、すかさず出口に向かおうとする、ミルドレーン。

 優しいんだな、二人とも。

 大好きな……私の仲間。

 私の友。

 私の……

「いい、何も要らない」

 今は、二人に傍にいて欲しい。

「頼む、ミド、行かないでくれ。二人とも、もう少し傍にいてくれ」

 何で、こんなに心細いんだ。

 たかだか、おかしな夢を見たくらいで……どうかしている。

「わかった。ここにいるよ」

「ああ、オレも、何処にも行かない」

 ああ、よかった。ありがとう……。

「……聞いてもいいかな?」

 遠慮がちな、カスミーロスの問い。

「……何だ?」

「うん……どんな夢を見たのかと、思ってね」

「……何か言っていたか?」

「いや。ただ、酷いうなされ方だったから……何か、悩み事でもあるんじゃないかと」

「悩み……」

 悩みなんてない。

 こんなに幸せなのに……悩みなんてあるはずがない。

「……わからない。目が覚めたとたん忘れてしまった。何か、モヤモヤとした不快感はあるけど……内容は全く思い出せない」

 そう、悩みなんかない。

 だが、なんだろう。この……消えない不快感は。

 不安……?

 わからない。俺は今、こんなにも幸せじゃないか。

「そうか。まぁ、やなこと早くは忘れちっまたほうがいい」

 いつになく神妙な、ミドの声。

 そんなに、心配してくれるのか。

 なんか、情けないな。

 早く……早く、笑わないと。

「もう、気にするな」

「……ああ。でもなんか……何でかわからないけど……」

「けど?」

「嫌な夢を見たことより、その内容を思い出せないことの方が……なんだか、寂しいような気もしたんだ」

 そう、それが悲しいんだ。

 何故なのか……何も思い出せないけれど。

「……そうか」

「ああ」

「でも……それは所詮夢だ。いつまでも気にするようなことじゃないぜ」

「……そうだな」

「嫌なことがあったら、甘えていいんだよ」

「そう、せっかく、オレたちがここにいるんだしな」

 うん……そうだな。

 どんな悪夢を見ても……目覚めれば仲間がいてくれる。

 それ以上に、幸せなことなんて、俺には想像もつかないよ。

「元気でたか?」

 まだ少し心配そうなその声に、めいっぱい微笑みを返す。

「ああ、おかげさまで。……気分転換にシャワーでも浴びてくる」

「うん、待ってるよ」

「……っと、落ち着いたら腹も減ってきたな」

「ははは。おやつの用意でもしておこう」

「うん……じゃ、またあとでな」

 そういい残して、俺はシャワー室へと向かった。

 もう、この不確かな気持ちに怯えるのはよそう。

 今は、あの気のいい仲間たちのことだけを考えていればいい。

 この、大切な現実だけを……見つめて。


END

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