あかずの間
「あかずの間があるんだよ」
そんな話が聞こえた。
「じいちゃんの家なんだけどさ。北側と南側に座敷があんの。あかずの間は南の座敷。あかずの間といっても、襖がぴっちり閉められてお札貼ってるとか封印されてるとかじゃなくて、むしろ襖は常に開け放してる」
「じゃあ、あかずの間じゃないじゃん」
話を聞いている相手が、もっともなことを言う。
「うん。開いてるし、別に座敷に入っても何てことはない。俺も小さい頃よく遊んだし」
あかずの間がある、と言っておきながら、立ち入り自由な座敷の話をしている。何が言いたいのかわからない。
「ただ、その座敷で寝ちゃいけないんだ」
話し手はふうっと息を吐いた。
「俺が小さい頃、親戚のおじさんが酔っ払ってその座敷で寝ちゃって、三日後に脳溢血で死んでさ」
淡々と続ける。
「それで、去年じいちゃんが死んで、空き家になったんだよね。そしたら、おばさん夫婦がそこを民泊にするって言い出してさ」
「はあ」
「ちょっと改装したりして、本格的に始める前に、お試しに知人を呼んで泊まってもらったんだってさ。そしたら」
なんだか嫌な感じがする。
「南の座敷に泊まった人が、十日以内に次々に亡くなったんだってさ。事故とか発作とかで」
「マジで?」
そのあかずの間に泊まると死ぬということか。
でも、それなら開け放しておかないで、それこそ封印でもして誰も立ち入れないような本物のあかずの間にしてしまえばいいのに。
「うちの親父はさ、あかずの間が嫌いで近寄らないんだ。民泊の話が出た時に、俺にその理由を話してくれた。親父がガキの頃、じいちゃんは度々、会社の先輩とか知人を連れてきて南の座敷に泊めてたんだって。そういう使い方をしてたって」
そういう使い方。
その部屋に泊めるだけで、嫌いな相手が死んでくれる部屋か。
本当にそんな部屋があったら、怖がって近寄らないか、利用するかのどっちかだろう。
「おばさんもそれは知ってた。じいちゃんは良くない使い方をしたって」
「じゃあ、民泊にするのはやめたのか」
「ううん。再来月から営業するって」
ぎょっとした。
その部屋に泊めた人が死ぬと知っていて、実際に泊めた人が死んで迷信じゃないことを確認したのではなかったのか?
「じゃあ、あかずの間は使わないで他の部屋に客を泊めるのか?」
「ううん。空けとくのはもったいないからって、普通に客を泊めるみたい」
「は? だって、その部屋に泊まると死んじゃうんだろ?」
「うん。でも、その部屋の中で死んだ人は一人もいないんだ。皆、泊まった後に別の場所で死んでるから、部屋の中で死なれる訳じゃないから別にいいんだって」
そこでバス亭に停まったので、高石はバスから降りた。
後ろの座席で他校生と思しき高校生が会話しているのが聞こえてしまった。
会話の続きが気になるが、それ以上に、「この先何があっても民泊だけは利用しないようにしよう」と高石は強く思った。




