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天国へ連れてって





 近所にちょっと有名なおばさんがいた。

 いわゆる新興宗教の信者で、それだけなら別に個人の自由なのだが、熱心な信者の例に漏れず迷惑行為と捉えられるほど周囲への勧誘が激しかった。


 ある日曜の昼下がり、家で一人でくつろいでいた高石はインターホンの音に腰を上げた。荷物が届く予定があったので、てっきり配達が来たのだと思ってうっかり鍵を開けてしまったのだ。


「あっ、どうも~少しお話聞いてもらえる今日はとてもいいお話を皆さんにお聞かせしなくちゃと思ってこうして一軒一軒回ってるんだけどほらわかるかしら回るっていうのは循環するということでねいい気はどんどん循環させなくちゃならないのよこうやって手のひらを合わせることで円ができていい気が循環してこれで病気が治ったって人もいるんですよ手のひらから強い気が絶えず放出しているのに貴方達は何も考えずにせっかくのいい気を垂れ流しにしているから不幸になるの」


 長々と喋られて内容は一つも理解できなかったが、ひとつだけどうにか聞き取れたのは手のひらを合わせないと地獄に落ちるという教えだ。


「我々「てのひら幸福会」のメンバーになると天国にいけるのよ神様の手によって天国に連れて行ってもらえるの他の皆は全員地獄に落ちるわ」


 要約すると、信者は死んだら天からお迎えが来て漏れなく天国に行けて、信者じゃないと問答無用で地獄に落ちるそうだ。


 おばさんが話している間中、高石は別のことが気になって仕方がなかった。

 おばさんはどう見ても痩せすぎで、それこそ手なんか骨と皮しかないようで、正直よくこれで立っていられるなと思うぐらいだった。

 あれほどの痩せ方は何か悪い病気なのでは?と思ったのだが、その後しばらくして例のおばさんが一人暮らしの家で倒れて亡くなっていたという話を耳にした。


 その後、特におばさんのことを思い出すこともなかった高石だが、一回だけ、古いアパートの前に佇む影のような姿を見かけた。

 生前と同じく骨と皮しかないように痩せていて、じっと俯いていた。


 うわあ、と思いつつ、見ないようにして通り過ぎようとした。

 その時、高石の目の前で、曇り空から大きな白い腕がにゅっと突き出てきて地上に佇むおばさんの体をむんずと掴むと、そのまま空に戻っていった。


 高石は呆気にとられて空を見上げた。灰色の空は何事もなかったようにしんとしている。


 信者は神様の手によって天国に連れていってもらえる。と、おばさんは確かそう言っていた。


 では、おばさんを掴んで空に連れて行ったあの手は、神様の手なのだろうか。

 おばさんは生前の望み通りに、神様に連れて行ってもらえたのか。


 そういうことにしておこう。他に理由は思いつかないのだから。

 おばさんはお迎えを待っていたのだろう。

 



 ただ、高石には、あの手の行き先が天国だったとは、どうしても思えない。




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