50話 暁 始動
俺はジークを背負ったまま、クレアちゃんと共に街灯に照らされた薄明るい夜道を、話しながら歩いていた。そうこうしているうちにジーク達の家についた。ジークを寝かせ、俺達も寝ようかと話していると、急に雰囲気の変わったクレアちゃんが声を発した。
「ねぇケイ」
「ん?なに?」
「私本当にね、ケイには感謝してるんだ」
「急にどうしたの?」
「前々からずっと言おうと思ってたんだけど、中々機会がなくてね」
「それって何に対しての感謝?」
「私達の元に現れてくれてと魔法を教えてくれてかな」
「魔法を教えてくれてってのは分かるけど、私達の元に現れてくれてってのは?俺それに関しては何もしてないよ?」
「私達ってね。4年前まではお父さんと一緒に暮らしていたの。強くて優しくて、お兄ちゃんと私に多くの愛情を注いでくれたお父さんだった。だからお父さんは私達兄弟にとって一番大切な人だったの」
ここでクレアちゃんは一旦話を区切り、一度深呼吸をしてから話を続けた。
「お父さんも冒険者をしていたんだけどね、4年前突然帰ってこなくなった。1日待っても帰ってこない、2日待っても帰ってこない。これが10日、20日と待っても帰ってこないと、私達は流石に気づいたの。お父さんは死んじゃったんだって、私達兄弟は悲しみでどうにかなりそうだった」
その頃の事を思い出しているのか、クレアちゃんの顔は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「そこから半年くらいはお父さんの残していた貯金で過ごすことが出来たけど、その生活も貯金が底をついたことで出来なくなった。それに、お父さんがいなくなったと気づいた近所の人達が、私達に嫌がらせをするようになった。きっとお父さんが生きていた頃は、お父さんが怖くて何も出来なかったんだと思う。それがお父さんが死んでしまったと気づいてから、嫌がらせをやり始めた。そんな嫌がらせを受けながら10歳の私と一緒に生きていかなければいけないお兄ちゃんは、とても辛かったと思う」
クレアちゃんは、泣きそうな顔から段々と悔しそうな顔をして、唇を噛み締め、手を強く握っていた。
「お兄ちゃんは私を庇いながら、なんとか雑用をこなしたりして、お金を稼いで生活していたの。15歳になってからは、お兄ちゃんは冒険者になって稼ぐようになったわ。でも本当はお兄ちゃんが冒険者になるなんて嫌だったの、だって仕事に出かけたお兄ちゃんが、お父さんみたいに帰ってこなくなったらって考えるととても怖くて、お兄ちゃんがいなくなったら私そんなの耐えられない。だけどお店の雑用だと、獣人だからと罵声を浴びせられたり、少ないお金で働かせられるの、そんな厳しい環境で働かせるのも嫌だったし、私は家でお兄ちゃんを待つことしかできなかったから、何も言うことは出来なかった」
話をしていくにつれ、クレアちゃんの顔はより一層悲しみと悔しさでいっぱいな顔をしていた。
「お兄ちゃんが冒険者になってからは、きちんとお腹いっぱいに食べれるようになったし、破れてない服も着れるようになったわ。お兄ちゃんと私は獣人だから、他の人よりもよく動けるからね。それでお金を貯めて今の家を買えるようになって、あの家に住むことができた。きちんと生活出来るようになっても、きっとお兄ちゃんの心は癒えることはなかったと思うの、3つも年下の私を養う為に頑張りながら、周りの嫌がらせに耐えるなんて、心の安らげる場所なんてどこにもないでしょ?そんなお兄ちゃんが、最近はすごく明るくなったの」
先程の辛そうな顔が、少し優しく柔らかくなり俺の方を見て微笑んだ。
「張り詰めた空気が柔らかくなって、馬鹿な事をしたり、人の前で無防備に酔ったり寝ることもするようになった。そんなお兄ちゃんの姿、小さい頃にしか見たことなかった。むしろ最近は冷静で大人しいお兄ちゃんしか見てこなかったから、そんなお兄ちゃん忘れてたぐらいなの。だから昔の様なお兄ちゃんに戻ってくれて、私すごい嬉しい。これも全部、ケイと出会ってからなんだよ。お兄ちゃんはずっと気軽に話したり、引っ張ってもらえる様な仲間がいなかったから、ケイと出会えてほんとに良かったと思う」
クレアちゃんはジークの顔を思い浮かべているのか、その顔には愛する人が幸せに、楽しそうでいてくれて嬉しいと純粋な喜びが現れていた。
「私だってただ家でお兄ちゃんを待つことしかできなかったのに、そんな私がケイが魔力操作を教えてくれたことで、ずっと使いたかった魔法が使えるようになって、お兄ちゃんの役に立てる道ができた。だからケイにはほんとに感謝しかないの。お兄ちゃんの頼れる仲間になってくれて、お兄ちゃんの安らげる場所を作ってくれて、私にお兄ちゃんの役に立てる道を作ってくれてありがとうって。だから言わせてほしい、私達と出会ってくれてありがとう!」
ここで初めて、いつものクレアちゃんらしく満面の笑みで笑いかけてくれた。
「そっか、クレアちゃんにとっても辛い事だったのに話してくれてありがとう。でもクレアちゃんが言ってた、ジークにとって心安らげる場所がなかったって話は違うと思うよ。だって自分を頼ってくれる存在ってのはいてくれるだけで、元気の出る源になったりするからさ。だからジークが今まで頑張ってこれたのは、家でジークの帰りを待ってくれるクレアちゃんがいたからだよ。一緒にいすぎて気づけなかったのかもしれないけど、クレアちゃんは気づかない内にジークの心を癒やしてあげてられてたと思う。だからクレアちゃんは、ただ家で待ってるだけしか出来なかったなんて悲しいことは言わないで、ジークの心を癒せる場所を作ってたってそう思ってよ。きっとジークもこの話を聞いてたらそう言ってくれるよ」
「そうなのかな?」
「そうだよ。それでもクレアちゃんが、納得できなかったり、それでもって思うなら、これから少しずつジークに頼られるような存在になったらいいよ」
「少しずつ?でも私もすぐに役に立てるような人になって、お兄ちゃんを支えていかなくちゃ、今までお兄ちゃんが私を支えてくれた分を早く返していかないといけないの」
「ジークの為に、ジークの為にって頑張るのはいいけど、頑張りすぎたり焦ったりしたら駄目だよ。そんなのジークは望んでないと思うから。兄が妹に望むことなんて1つだよ。人生を楽しんで幸せに生きてほしいってことだけ。だからクレアちゃんも、そんなに肩肘張らずにもう少し楽に生きたらいいと思うよ。きっとその方がジークも喜んでくれる」
「そっか、ありがとう。なんか肩がすこし軽くなった気がする。お兄ちゃんの役に立てる様な人になって、支えたいって気持ちに変わりはないけど、焦らずに少しずつと頑張っていきたいと思う」
「うん、それでいいと思う」
「あっそれといい忘れてたんだけど、もうそろそろクレアちゃんじゃなくてクレアって呼んで?なんか子供扱いされてるみたいで嫌」
「ハハハッ!そっか、じゃあクレアって呼ぶね。これからは同じパーティーメンバーとしてよろしくね」
「うん、よろしくね」
話し終わってから少しすると、クレアの寝息が聞こえてきた。俺はクレアから聞いた話で眠れなくなってしまい、夜風に当たるために少し外に出ることにした。
(それにしても、あんなに明るいジークも大変だったんだな)
そんなことを考えながら空を見ていたりすると、近くに人の気配を感じた。
「起きたのか」
「あぁ、途中で起きててクレアの話を半分ぐらい聞いちまった」
「あーあれ聞いてたのか。ジークも大変だったんだな」
「まー大変だったって言えば大変だったけどよ、もう昔の話だよ。クレアの奴があんな風に考えてるなんて知らなかった。もっとクレアの気持ちを考えてやればよかったよ」
「まージークはジークなりにクレアに心配させないように困らせないように、頑張ってたんだろ?そしたら気づけなくてもしょうがないだろ」
「じゃあこれからもっと気をつけるようにするよ」
「そうしとけ」
「おう、それとクレアの話を聞いてアドバイスまでしてくれてありがとな。兄として礼を言う」
「ハハッ!ジークもしっかりとお兄ちゃんやってんだな」
「な、なんだよ。兄歴14年だぞ?なめんな」
「ジークはジークでこれからも、クレアを心配させないような兄にならないとな」
「それは思った。クレアの話を聞いてて、俺も頑張らないとなって感じたわ。明日からもっと頑張るぞー!」
「おい、馬鹿!もうみんな寝てるだろ!静かにしろよ。俺はもう寝るからな」
「じゃあ俺も寝る!」
俺たちはその後、疲れていたのかすぐに眠ることが出来た。
ー10日後ー
朝、味噌汁の匂いと包丁の心地良い音を聞きながら目が覚めた。台所の方を見ると、いつものように台所に立つクレアがいた。
俺は目をこすりながら起き、クレアに話しかけた。
「おはようクレア、俺も手伝うよ」
「ケイおはよう。ありがとう、じゃあいつものように肉野菜炒めを任せてもいい?」
「いいよ、任されました」
ここ最近で日課になっている、クレアとの朝食づくりをこなしていると、起きてきたジークが話しかけてきた。
「お前たちのそういう姿を見てると、結婚してるみたいだな」
「ちょっ!お兄ちゃん!何言ってるの!?私とケイが結婚だなんて」
「お前は何を慌ててるんだよ」
「それにしても今日は早いな、どうしたんだ?」
「どうしたって、今日が暁が受ける初めての依頼だぞ?気合はいるだろ!?」
「俺はそんなにかな、確かにずっと訓練ばっかりしてたからその力を試せるって意味では楽しみだけど、そのくらいかな」
「私は初めて自分でお金を稼げるって意味では楽しみだよ」
「お前達は盛り上がりにかけるぜ!もっとないのか!?暁始動!!みたいなのはよ!」
「ないなー」
「もーお兄ちゃん、朝からうるさい!これ以上うるさくするなら、朝ごはん食べさせないからね」
クレアにそう言われたジークは、ここで初めて静かになった。
「まー今日から暁が本格的に活動し始めるって事で頑張っていこうな」
「うん、頑張る」
「俺は!暁をいつかSランクにする為に!全身全連頑張るぞー!」
「だから!お兄ちゃんうるさい!」
朝食を食べ終えた俺達は、冒険者ギルドへと向かった。
この10日間で何をしていたかというと、簡単に言えばクレアの魔法の練習だ。クレアをパーティーに入れたまではいいものの、まだまだ魔法を使い慣れていないクレアを幻の森へと連れて行くのは正直怖すぎたので、10日ほど時間を取って、魔法を使う事を慣れさせることにした。その結果、クレアは魔法に関して才能があり、器用なので、簡単な魔法なら基本的に使えるようになり、なんとジークの練習していた風脚を完璧にマスターしていた。先を越されたジークは、悔しそうにしながら練習に明け暮れていたが。トルーヤさんからも、もう実戦に出ていいぞとお墨付きを貰ったので、今日から依頼を受けることにした。
今のステータスはこうなっている。
ーステータスー
名前 木下 圭
年齢 16
職業 冒険者
レベル 14
HP 750 MP 630
STR 72(+18) VIT 87(+16)
AGI 117(+18) DEX 72
INT 77
残りステータス割り振り0ポイント
剣術Lv3 短剣術Lv5 体術Lv6
盾術Lv2 身体強化Lv6
生命探知Lv3 気配消去Lv3
投擲Lv5 解体Lv2 鑑定
光魔法Lv3→4 up! 水魔法Lv3 →4 up!
雷魔法Lv5 時空魔法Lv4
魔力量増加Lv4 魔力操作Lv6
詠唱破棄
SP90
最近はレベルも上がってきているため、10日程練習したくらいではレベルが上がらなくなってきた。
3人で話をしながら歩いていると、冒険者ギルドに着いた。扉を開け中に入ると、朝の時間帯なので、依頼を受ける冒険者でいっぱいだった。俺達はE、Dランクの依頼の貼ってあるクエストボードの前まで来た。なんでE、Dランクの前かというと、クレアのランクがEだからだ。クレアが冒険者登録をする時、トルーヤさんの助言があり、G、Fランクを飛ばしてEランクからのスタートとなったのだ。
「まークレアは今日が初めての実践だから、少し弱いのを倒しにいく?」
「私相手が弱くなくてもいいよ?」
「んージークはどう思う?」
「クレアがいいって言ってるならいいんじゃねぇーか?」
「もし無理そうでも、俺達がいるしいいか」
「おう、その時は任せとけ」
「その時はお願いするね」
「それじゃあ、クエストはスライム液、暴れ牛、大ガエルを受けるとして、初めはゴブリンや一角うさぎを狩って進もう、それでもしクレアが辛いなら引き返そうか」
「俺は賛成だ」
「私もそれでいいよ」
俺はその3つの依頼票を手に取って、受付に向かった。ミリアさんの列は、朝の時間帯ということもあり恐ろしいことになっていたので、ダリアの列に並ぶことにした。15分程で俺達の番が回ってきたので、ダリアさんに依頼票と全員分の冒険者カードを提出した。
「おはようダリア」
「おはようケイくん、ジークくん、クレアちゃん」
「お、おはようございます!」
「おはよう!」
「ふふ、今日も元気ね。暁は今日が初めての依頼よね?ケイくんとジークくん自体は初めての依頼じゃないから大丈夫だと思うけど、張り切りすぎて怪我しないように気をつけてね」
そう言ってギルドカードを渡してきた。
「もちろん気をつけるよ」
「だ、大丈夫です!」
「気をつけます」
「いい子ね。それじゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「い、行ってきます!」
「行ってきます!」
俺達は冒険者ギルドを後にした。
ーマジックボックスー
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(117万0900円)
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