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まぼろし病と患者達  作者: 風島ゆう
花患いと竜の禊病
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 自室に駆け込むなり、奏は三つ折りにして重ねてあった布団の山に突っ伏した。

 両手でしっかり布団を掴んで、窒息するほど強く顔を押し付ける。

 息づかいも嗚咽も、何もかも飲み込んで必死に込み上げて来る涙に耐えた。


 独りだ。


 あまりにも広大な暗闇の中に、たった取り残されたような孤独を感じて体が震える。

 汗ばむほど蒸し暑いのに、全身が冷えて冷えて凍えそうだった。


 これで本当に、独り。


 無邪気な颯太の笑い声が耳に蘇る。涙を流しながら颯太を抱きしめた彼の両親の姿が頭をよぎる。瞼の裏で何度もリフレインするのは、壊れた家族が再生する瞬間だ。


 ──裏切り者。


 思いついた言葉に愕然として、奏は自己嫌悪に吐き気を覚えた。


 違う。


 布団に埋もれた頭を振って必死に否定する。


 颯太の幸せを願ったのは自分自身だ。自分とよく似た孤独を抱える颯太が可哀想で、彼を悲しみから救って欲しくて、自分が望んで理人に託した。だからこれは、ハッピーエンドなんだ。


 それなのに、割り切れない思いが昏く奏の心を蝕んでいく。


 寂しい。寂しい。心が引き裂かれるようだ。


 体中に充満する閉塞感に苦しくなって、奏は布団から顔を離した。

 引き攣れた息を吸い込むと、弾みで涙が一粒零れた。そこへ。


「奏、帰ってるの」


 開け放したままになっていた襖の向こうから、母が顔を出した。

 反射で振り返った奏の頬を転がるように涙が落ちる。

 顔の輪郭から離れる一瞬、涙はふわりと形を変え、赤い花となって畳に転がった。


「あんた」


 みるみるうちに顔を歪ませて、母が落ちたアネモネと奏を見比べる。

 わななく唇は嫌悪に満ちていて、次の瞬間、母は手にしたハンドバッグを奏に向かって力いっぱい叩き付けた。


「やめなさいよ! 気持ち悪い子ね!」


 吐き捨てると、引っぱたくような音を立てて襖を閉める。そのまま玄関を出て行く足音を聞きながら、奏はハンドバッグがぶつかったこめかみを撫でた。

 ぴり、と痛むのは、きっと鞄の金具が皮膚を傷つけたせいだろう。

 毒々しい雄しべを剥き出しにするアネモネを左手で握りつぶす。


 こんなものが出て来る体だから、私はお母さんを不幸にする。


 再び布団に頭を突っ込むと、奏は冷えていく体を両手で抱きしめた。


「……ごめんなさい」


 この不幸は、私のせいだ。


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