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通された和室の客間には、すでに颯太の両親らしき人たちが座っていた。
一枚板のテーブルの向こう側から、胡散臭そうな目を隠しもせずにこちらを眺めている。
「どうぞ」
颯太の父が、固い声で向かいの席を示す。
父と母は浅く一礼してから、丁寧な仕草で座布団をよけると畳の上に座った。
理人も奏に並んで出入り口に近い位置、最も廊下に近い側に正座する。
異様な緊張感の中、理人の両親だけが穏やかな空気をまとっていた。
親同士は面識があったようで、挨拶代わりに世間話を交すと本題に入った。
父のやり方は、柔和な物腰に反して竹を割るようだと理人は常々感じている。
余計な言い回しはせず、いきなり核心に触れるのだ。
どんな不思議が起こっていて、何に困っているのか。人が信じないような病の症状を当たり前のように言い当てて相手を驚かせる。この衝撃を前に相手が無防備になったところを狙ってまぼろし病の知識や識者の存在をねじ込むのだ。やり口としては、なるほどペテン師と同じだ。
淀みなく受け答えする父の声を聞きながら、理人はその手腕に舌を巻いた。
ジワジワと蝉が鳴いている。クーラーの効かない蒸し暑い部屋の中、弱々しい扇風機の風だけでは流れる汗はちっとも治まらない。流れる汗を拭っていると、颯太の父が低く呻いた。
「そんなこと、信じられるか」
日に焼けた颯太の父が磨き上げられたテーブルを睨みつけている。その形相に、颯太の母がハラハラと挙動不審な様子を見せていた。
「そんな……そんな作り話みたいな病気……そんなもんにうちの息子が罹ってるわけねえ」
肩に力を入れた颯太の父が、ぎらりと理人の父を睨みつけた。
「俺達だって息子を放っておいたわけじゃねえんだ。島の医者じゃ埒が明かないから、本土の大学病院をいくつも回った。脳の検査もしたし、病気の検査もした。障害かもしれんと言われて、よく分からねえテストもずいぶん受けた。それでも原因は分からなかったんだ」
あげく、と声を引き攣らせて颯太の父が吐き捨てる。
「最後に行った病院で、お偉い先生に言われたんだ。これは心の病気ですって。颯太は心に何か深い傷を負っていて、泣くことをきっかけにそのストレスを忘れようとするんだろうって。まるで──まるで、俺たちがあいつに酷いことしてるみたいに……!」
その時の医師を理人の父に重ねたのか、颯太の父が顔を歪めて嗤った。
「帰って来てから、散々考えたさ。俺は海の男だから、がさつで口も悪い。怒る時はどつくし、颯太が泣いても許さねえ。だから、俺が」
乱れた呼吸に言葉がつかえて止まる。隣に座る颯太の母が目に涙を溜めた。
「俺が、あいつをあんな風にしたと思ったよ。散々反省して、なのについ、また怒鳴っちまう。うまくいかないことばっかりで、あいつが思い出を一つずつ失くしていくたびに、俺は父親失格だって責められてるみてえで……こいつにも、八つ当たりして」
ぽろり、と颯太の母の瞳から涙が落ちる。
理人の隣で奏が驚いたように肩を震わせると、俯いて颯太の母から視線を逸らした。




