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まぼろし病と患者達  作者: 風島ゆう
雫のみ
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 早朝の太陽が家具の影を長く見せている。


 家に戻るなり両親を叩き起こした理人は、二人の識者にことのあらましを伝えた。

 和室の居間で向き合った父が、理人が話し終えるのを待って口を開く。


「それで? そこまで言って、どうしてお前はその患者に対処法を教えてやらなかった」


 息子にというよりは、若輩者に向かって投げかけるような突き放した声だ。

 子どもだから、とか識者でもないのに、といった言い訳を許すような声ではなかった。


 小さく息を吐いて、のしかかる重圧を無理矢理払う。

 覚悟ならもうできている。畳の目に落としていた視線を上げると、理人は答えた。


「対処法をその場で伝えなかったのは、病にかかったのがまだほんの子どもだからです」


 口調が改まったのは無意識だった。


「颯太くんの場合、対処法には周囲の協力が必要になると思います。一番身近で協力者になれるのはご両親だ。まずはご両親の理解が必要だと考えました」


「お前はその両親の説得を、俺にしろと言っているのか」


 居住まいを正した父の威厳に冷や汗が出る。

 飲み込まれそうになるプレッシャーに耐えて、理人は正直に答えた。


「僕では信用に足りません」


 見栄を捨てろ。現実を見ろ。できないことを見極めて、できる人に託すんだ。

 腹をくくって理人は続けた。


「自覚も足りない、知識も足りない、弁も立たない。ただの子どもでは、大人を説得することはできません」


 畳に手を突いて、理人は惜しげもなく頭を下げた。


「お願いします。力を貸してください」


 父さん、と呼ぶと、頭の上の気配が身じろいだ。

 ややあって、はー、と大きなため息が聞こえる。


「可愛げがないね、お前は」


 呆れ声に顔を上げると、父が父の顔でこちらを見て苦笑していた。


「まったく聡くて嫌になるよ。若気の至りとか、熱くなって突っ走るとかないのかお前は」


 青春をどこに置いて来たんだ、とわけの分からない愚痴をこぼして父が立ち上がる。

 そのまま部屋を出て行く背中を呆然と見送っていると、母が優しく補足した。


「分を弁えた判断でした、ということよ」


 認められたのか未熟だと言われたのか分からなくて、理人は複雑な思いで母を見つめ返した。


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