42
午後の太陽が角度を変えながらも、累と理人と、理人の横にちょこんと座った奏をやんわりと温めている。
「ふうん。では、村主さんが戻る時間はいつも決まっているというわけですね」
どんぐり病について詳しい話を聞きたいと申し出た理人に応えて、累が簡潔にまとめた概要を話すと、若い九々重は実に興味深そうに頷いた。
「十五歳の夏か。それからの人生はいくらでも違う道を歩めると」
「そうね」
理人の確認を肯定して、累は更に説明を足した。
「わざわざ前の人生を忠実に再現しようとしなかったせいもあるでしょうけど、戻ってからの人生はいつだって違うものになったわ。似ていることが起きても、全く同じことは起こらなかった。例えばどの人生でも必ず出会うあなた達とだって、出会い方や話す内容は毎回違うのよ」
繰り返される人生の中では、戻る時間と二人の子ども達に会うことだけが決められた予定調和であった。逆に言えば、決まっていることはそれだけだ。
「好きな人も?」
思いついたような奏の声が、累に問う。目を剥いたのは理人だ。
「ちょっと奏。デリカシーないよ」
「なんで? 何度も人生を繰り返して、だけどどれも違う人生なら、出会う人もきっと変わるじゃない。そしたら好きになる人も変わるのかなとか、それでも同じ人を好きになるのかなとか、気になる」
「奏っ」
少女らしい興味を見せる奏の口を慌てて塞ぎにかかる理人は、彼女より少し大人だ。
理人の気遣いを察しながらも、累は声を立てて笑った。
「いいのよ。そうね、そうかもしれないわね。出会う人は変わっていったし、興味のある人も変わっていったわ」
優しい人も、居心地のいい相手も、足を引っ張る相手も、傷つけようとしてくる相手も、やり直す度に変わっていったように思う。
でもね、と累は奏を見つめた。
「恋とか愛とか、そう意味で好きになる人はいなかった。親友も家族も作ろうとは思わなかったわ」
同じ人に再会しても、同じ関係にはならなかった。むしろ積極的に避けたほどだ。
「だって私は、いつか必ず、一人でもとの時間に戻るのよ。それまで築き上げたものに関係なく唐突に別れて、やり直さなくちゃいけない。次の人生で同じ人に出会ったとしても、相手は私を知らないわけ。どんなに親しくなって、どんなに心を通わせても、私は私を知らないその人に出会わなくちゃいけないの。それってなんだか虚しいじゃない」
小さな子どもがふいにぶたれたような顔をして、奏が息を呑んだ。
それを見て理人もまた眉を下げる。理人の場合、累より奏の心痛を心配したのかもしれない。
「やあねぇ。そんな顔しないでよ」
苦笑して、累は二人の子どもを交互に見比べた。
「いい思い出のある人との記憶は、そのままで大切にしておきたいってことよ。それにね、そんなに悲しいことでもないの」
この境地に至ったのは、わりと最初の頃だ。
時を繰り返したことのない二人を相手に、どんな言葉でそれを伝えようかと累はちょっと首をひねった。
「悲しくないっていうのは……そうね、その気になれば何度でもやり直せる人生にも、人との関係にも、執着できなかったってことかしらね」
揺れる瞳で懸命に考えようとする奏に向かって、言って聞かせる。
「人はね、奏ちゃん。出会って紡ぐ関係がたった一度きりだからこそ、人を愛するし、丁寧に向き合おうと思えるのよ」
累を見上げる奏の瞳が大きく見開かれた。その横で、理人も累を見つめる。
穏やかな春の日差しが、若い二人の頬を照らしていた。
「言ってしまった言葉も、やってしまった行いも、二度と取り返しがつかないからこそ、人生はとても尊い」
その尊さから引き離されたのは、やっぱりこの病が自分に対する罰だからだ。




