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「対処法はどうなるの」
奏の言葉に弾かれて、ルイスは理人に目をやった。
すでに伝わる病であれば、その対処法も語られている可能性がある。
奏とルイスと、二人分の視線を向けられた理人は、しかしその目をふいとそらした。
「この病が信憑性に欠けると言われたのもその点にあって……つまり、病の末路と対処法が物語に似すぎているってことなんだけど」
まわりくどい前置きを述べて、理人がしばし冷たくなった茶を眺める。やがて意を決したように顔を上げると、ルイスに向かって言った。
「人魚姫症候群は、意中の相手と結ばれることによって完治すると言われています」
瞬間、脳裏に藤花の顔が過った。しかしすぐさま樹の顔がちらついて、ルイスは固く瞼を閉じた。
「意中の人って……」
奏の声が、言いかけた言葉を途中で吞み込む。
理人と一緒にノートを覗き込んでいた彼女には、それが誰で、どんな境遇に置かれているのかを知ることができたはずだ。
額に拳を当てて、ルイスは理人に尋ねた。
「結ばれなかったら、どうなるの」
病名の物語と似ていると言った、その顛末は半ば予測できるが……まさか。
ためらうような間が空いた後、ごまかしのないまっすぐな声がルイスに答えた。
「相手が別の人と結ばれると、患者は無数の泡となって消えます」
奏の呼吸が音を立てて引き攣れた。他人の痛みをまるで自分の痛みのように感じる子なのだ。
「そうか」
予想とほぼ変わらぬ解答を聞いて、ルイスは閉じていた瞳を開けた。
それならかえって腹が決まる。
「いいね。悪くない終わり方だ」
「そんな……!」
悲鳴のような声を上げて、奏がいやいやと頭を振る。
「諦めなければ……もしかして」
言い募る奏の肩に、ルイスはそっと手を置いた。
「それは僕の望むところではない」
手を尽くして藤花を振り向かせるより、彼女が本当に愛した人と幸せになってほしい。
樹なら、とルイスは思う。
不器用だけど優しいあの男なら、きっと藤花を明るい場所へ導ける。見守ることしかできなかった自分と違って、藤花の手を引いていけるだろう。
「でも」
ルイスの選ぼうとする道を受入れたくない様子で、奏が懸命に言葉を探す。
結局思いつかずに震える肩を手のひらに感じて、ルイスは穏やかな気持ちが広がっていくのを感じた。
自分の代わりに痛がり、悲しんでくれるその姿が、ルイスの心を確かに慰めたのだ。
藤花と樹。二人の友人がきちんと幸せになれるように。
そのためには生じてしまった小さな綻びを早く繕わなくてはと、ルイスは暗く沈む夜闇と明るい室内を隔てる障子に目を向けながら、強く思った。




