17話 その女神、ウザい。1
お待たせしました。
透明な筒形のエレベーターに乗り込むとスライド式の扉が閉まり、少しばかり浮遊感を感じた後また扉がスライドして開く。目に入ったのは少しばかりの照明の光と白い壁の通路だ。
「またここに戻ってこれるなんて、な……」
つい最近の事だが、何故か思い出深い。
少しだけ感傷に浸っていたが、カイルは我知らずとばかりに先に進んでいく。
「……で、一緒にここに来たわけだが」
「とりあえずついてきなさい。私ではなく、説明できる人がこの先におられる」
ということらしい。俺は肩をすくめて大人しくついていく。
そうしてしばらくすると、中央が陥没した鉄の板と、扉がない部屋の入り口が見えてきた。……そういえば蹴って壊したんだっけ。その扉だった鉄の板をチラリと見やってからカイルは部屋に入っていく。
俺がこの世界で目覚めたのはこの部屋だったなぁ……。俺がいた時はよくわからん機械がいっぱい置いてあるだけの部屋ってイメージしかないな。とりあえず、俺も入るか。
と一歩を踏み出して部屋に入った瞬間だった。
「――!?」
何か鍵がカチリと外れた感覚が頭の中で感じ、記憶が流れ込んでくる。……そう、あの白い空間での出来事を俺は思い出した。
となると、この見た目はカイルの人物はもしかして……。
「……もしかしてアンタ、六道さんか?」
「ふむ。その様子を見る限り思い出したようだな? ……トリガーはこの部屋、か?」
[イエース! 流石六道君。察しがイイね!]
唐突に大音量で女性の声がどこからともなく聞こえてきた。
な、なんだ!? どこからこの声が聞こえる?
俺は狼狽えて周囲を警戒するが、六道さんはある一点を睨みながら耳を塞いでいた。
「……女神様。随分とスピーカーの音量が大きいです。調整ミスをしましたね? そしてあなたの姿がモニターに映ってないですよ」
[えっマジで!? どれどれ……]
六道さんが睨んでいたのは部屋の中の壁だ。が、よくよく見ると薄い何かが張り付いているのが確認できる。俺がいた時からあったんだろうか? いや、気づいてないだけで、あったんだろうな。
またも女性の大音量が部屋に響き、カイルと俺は顏を顰めた。
……う、うるせぇ。今すぐこの部屋から出たいんだが。
「り、六道さん……この声は一体? それにさっき女神さまって言いました?」
「あぁ……耳をふさいでしばらく待とう。調整に手間取っているようだ」
その言葉通り、なにかしらのノイズ音とガタゴトと何かを動かしている音が聞こえてくる。もちろん、大音量でだ。六道さんは部屋から出る様子はないので、仕方なく俺も耳をふさぎながらジッと待機する。
――そうしてしばらくすると、目の前の壁に貼り付けられていた何かに女性が映りこんだ。
[あーあー、テステス……どう? だいじょうぶ?]
「問題ないです、女神様」
[あーよかった。こっちとそっちじゃ結構都合が違うの忘れてたよ~]
「そのようで。……それでは女神様。後は任せていいですか? 私は少しばかり調べものがあるもので」
[おっけー! 仁君のことは私に任せて、いってらっしゃい!]
そう言って部屋を出て行く六道さんを、女性は大きく手を振って見送った。
そうして残されたのは俺と、この画面に映っている女性だけだった。
……な、なんなんだろう、この状況は。
[さてさて、まずは自己紹介と行きますか。――この可憐でカッコイイ美女神が誰かって? もちろん、みんなの機神! メイヴルちゃんだよ☆]
「…………仁です」
キラッと星が出そうな勢いで銀髪を激しく振り乱しながら、ウインク&キメポーズ。正直言って、痛すぎる。絶句するわけにもいかないので、とりあえず名前だけ言ったが……帰りてぇ。
[なんだか顏が暗くなってない? 大丈夫? 部品交換する?]
「いや結構です。それよりも、なんでその機神さまが俺をこの世界に?」
この質問だが、確信をもって言えるのは……間違いなくこの駄女神のせいだろう。
[えー? もう本題に行っちゃうの? もっと私と雑談、しない?]
またしてもウインク。ウザいんで帰っていいですか?
無表情になった俺を見てか、画面上で少し慌てる女神。
[あからさまな顏しないでよー! わかったわよー……真面目な話、嫌なんだけどなー]
と頬を膨らませる女神。正直、見た目大人の人がそれをやっても可愛くもなんともない。やべぇ、六道さんが冷めた対応していたのがわかる。
[うーんと、まず仁君がなぜこの世界に来たのかっていう問いに対してだけどぉ……正直なところ、私にもわかんないんだよね☆]
「おっと、こんなところに虫が」
その答えにイラっときた俺はつい出力最大状態で床を踏みつけた。少しばかりの振動と、床には少しばかりの罅が入った。……割と頑丈な床だな。
[えー? 虫いたの? 衛生環境と外敵排除は完璧のはずなんだけどなー。ま、いっか♪]
「……もっとそのことについて詳しいことを聞いてもいいですか?」
[えーっとねぇ……]
女神が軽い口調で説明を始めた。
……この女神が言うには、元々この世界に転生(憑依?)をさせる予定だったのは、六道さんだったらしい。
だが、転生させる直前になって俺の魂がこの世界の器……つまり今の俺のこの機人の身体に憑依した、ということだ。理由は不明。仕方なく六道さんを俺のサポート係にまわそうとしたらしいが……。
「一ついいですか?」
[うん? どうしたの仁ちゃん]
いつのまに、ちゃんづけされるように……いや、今はいいか。
「俺がこの世界に来る前……つまり、死んだあとに俺は真っ暗な空間に意識だけで放り出され、不安定な光球に導かれ、この世界に来ました。……本当に女神さまはわからないんですか?」
そう。俺がこの世界に来る前に案内役のようなものがいた、はずだ。正直あの時の光景は夢か何かだと思うこともある。だが、俺が覚えているのだから、現実に起きたことなんだと思いたい。
[真っ暗な空間に……光球? 他の神の干渉かしら……けど、そんな空間なんて作れたかしら? それも位が低い魂を呼ぶことができる空間?うーん……]
独り言を呟きながら女神は考え込み始めた。……本当にこの女神が俺をこの世界に呼んだわけじゃないのか? だとしたら、俺を導いたあの光球はなんだったんだ? なんの訳があって俺を……。
[ごめん仁ちゃん、本当にわからないわ。……何かしらの神が干渉してるとは思うんだけど……心当たりがなくて……うん、サッパリだわ]
そう言いながら女神は申し訳なさそうな表情でペコリと頭を下げた。……神なんだよな?
「いえ、女神さまでもわからないのであれば、どうしようもないと思います」
[そう言ってもらえると、メイヴルちゃんも助かるわぁ~☆]
……どうやらウザさはそのままのようだ。
そのウザいしぐさのあと、女神は話の続きを口にし始めた。
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