16話 カイルの家へ……?
遅くなりました。すいません!
「美味しいかしら? カイル君」
「うん! 俺の母ちゃんの御飯よりおいしい!」
一生懸命に口へ料理を運ぶ手を一旦止め、野菜の切れ端を口に付けながらカイルは笑顔でそう答えた。
嘘でもいいから親は褒めるべきだと思うんだが……。この食べっぷりからして本当に美味しいと思ってそうだから、余計なことは言わないでおくか。
「あらあら、そう言ってもらっておばさん嬉しいわ。……けどねカイル君。あなたのお母さんの料理だって、私に負けないくらいの思いが込めて作られてるのよ? だから、お母さんのより……なんて言っちゃだめよ?」
「う、うん……。母ちゃんの御飯も、なんかあったかくなって……俺、好きだな」
「うふふ……」
……俺が言いたいことを、リリナさんはカイルの頭を撫でながら諭すようにそう言ってくれた。
その微笑ましい光景を横目で見ながら俺は料理に口をつける。
つい先ほど、カイルは俺の見舞いにゼンさんの家に尋ねてきていた。というのも、俺の意識がない10日間のうち数回ほど見舞いに来ていたようだった。カイルなりに何か責任を感じていたんだろう。いつもの通りの見舞いだと、俺の様子を伺ってからすぐ帰るらしい。今日は俺が目を覚ましかつ、食事をしていたのもあり、ゼンさんとリリナさんが一緒に食事を勧めた。なお、誘った本人の一人、ゼンさんはギルドに仕事があると出かけてしまった。また俺から話を聞きたいと言っていたので、予定は空けておこう。……まあ、入れる予定なんてほぼほぼないんだけどな。
そうして食事を続けて暫くすると――「あっ!」と、カイルが何か思い出したかのように声を上げた。
「そういえば兄ちゃん。このあと用事とかある?」
「いや、特にないな」
本当になにもやることはない。いや、ギルドで依頼を受けてもいいんだけどな。
だけど、知人に誘われるならそっちを優先する。
「それなら俺の家に来てほしいんだ! 母ちゃんがお礼を言いたいって!」
「お礼? 何かしたっけか……って、あぁ!」
「なに言ってんだよ! 俺の依頼手伝ってくれたじゃん! そのおかげでいい薬買えたんだ! 母ちゃんも喜んでだぜ!」
元々カイルの母親の病気を治すための薬の資金集めにゴブリンの群れ討伐に行ったんだっけか。……まだ頭がボケてるのか、忘れてた。いかんいかん。
パンっと音が鳴る程度に少し強めに頬を張り、頭を振る。
「だいじょうぶ兄ちゃん?」
「いや、気にするな。んで、カイルの家だっけか? それは今から行くってことでいいのか?」
「うん。兄ちゃんが良ければだけど……」
「そうだな……」
チラリとリリナさんに目線を流すと、リリナさんは小さく微笑んだ。
「いってらっしゃいな。あの人には私から言っておくわ」
「すいません……ものすごく世話になったのに何も返せず……」
意識がない間ずっと看病をしてもらい、目が覚めてからの食事の用意。リリナさんには足を向けて寝れそうにない。そのうちお礼も兼ねて、ゼンさんとリリナさんには何か贈ろうか……。
「別に気にしなくていいのよ。 あの人がこんなに気に入った人なのだもの。いつでも来てくれていいのよ?」
「はい。またお邪魔させてもらいます。……カイルも料理のお礼言っとけよ」
「おばちゃん! 俺の母ちゃんと同じくらい美味い料理、ごちそうさまでした!」
そう言ってカイルは勢いよく礼をした。俺も軽く頭を下げた。
「カイル君も、よかったらまた来てちょうだい」
「うん! またきます!」
リリナさんに見送られながら、俺達はゼンさんの家を後にした。
……俺、カイルの家に向かってるんだよな? いや、カイル一家がどんな場所に住んでいようと俺には関係ない話なんだが……。
「なあカイル。ここ、魔の森だよな?」
俺の目の前には鬱蒼とした森が目に写っている。後ろを振り向けばコネクトの町の裏門も見える。
裏門にいた見張りっぽい人は、危ないからと俺達を制止したがカイルはそれを「大丈夫」の一言で済まし、門を抜けていったのだ。
「……そうだよ兄ちゃん。この森をしばらく進んだところに俺と母ちゃんの家があるんだ」
「そ、そうか」
どうやら行先は魔の森の中で間違いないらしい。魔物も出没するこんな危険な森の中に本当にカイルの家があるのか? いやでも、本人がそう言ってるんだから本当なのか? いやでもなぁ……。
「兄ちゃん? おいて行っちゃうよ?」
「あ、ああ。今行く」
俺が考え事をして足を止めていたが、一方カイルはずんずんと先に歩を進めていた。
まあ、魔物が現れても俺が何とかすればいいか。……メアリー、俺の体の状態は?
『先ほどの食事により、魔力残量は80%まで回復。損傷部位はマスターが意識を失っている際に修復が完了しています』
…いっぱい食べたもんなぁ。それに美味かった。魔力を補充するにしても、不味いものは食べたくないよな。うん。……あれ? そういえば俺の意識がなくなったのは、魔力がなくなったっていうのが主な理由なら、なんで俺は目が覚めたんだ?
『その疑問は尤もだと思います。ですが、仮死状態には大気中の微量な魔力を吸収する、という機能があります。これを伝える前にマスターは意識を失ってしまったので、私のミスです。申し訳ございません』
な、なるほど。ああ、謝らなくてよかったのに。あの時はかなり状況が急だったし、しょうがないし。……けど、大気中にある魔力か……。それって普段から吸収することは……?
『できません』
ですよねー。そんなことが普段から出来てたら食事も睡眠も必要なくなるしな。そこまで便利じゃないか。
今更だけど、俺の身体ってもっといろんな機能があったりするんだろうか? そこんとこ、時間があればメアリーに聞くのもいいな。と、メアリーと声が出ない会話を続けているとカイルの足が止まった。
「兄ちゃん。ここ、立ってもらっていい?」
「うん? なんでだ?」
カイルが立ち止まったのは少しだけ開けた森の中の広場のような場所だった。……ん? 最近ここに来た記憶があるんだが……気のせいか?
そのカイルが指差す地面には草が一本も生えておらず、円形に広がる茶色い地面だけがそこにある。
「いいから。母ちゃんの家に行くのに必要なことなんだよ」
「? まあ、いいけどさ」
とりあえずカイルに言われた通り指定された地面に足を踏み込む。
この禿げた地面に立ってどういう意味があるんだよ……。と、疑問を持った瞬間、目の前に透明の筒のようなものが瞬時に出現した。
「ッ!? ……これって確か」
……俺をこの森に運んできた、エレベーター、か?
「……さあ、行こうか。風祭仁くん」
背後に立っていたカイルから今まで聞いたことのないような口調で口にされるのは、俺のフルネーム。
「……お前、カイルじゃないな?」
「その質問に対してまず……そこの昇降機に乗ってもらってから話すとしよう」
年相応の子供の顏ではなく、幾度も修羅場を超えてきたかのような、余裕の笑みを浮かべたカイルの顏がそこにはあった。
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