15話 ゼンの疑問
休みを利用して投稿。
長方形のシンプルな机の上には色とりどりの料理が並べられていた。この世界の料理はゼンさんに連れて行ってもらったあの料理店で初めて見たきりだが、今目の前に広がっている大小様々な皿に乗せられている料理も見劣りはしていない。
「さあ、たんと食べてね。私が腕によりをかけて作ったのよ」
「おっ!? 母ちゃん特製のゼファーバードの香草焼きもあんじゃねえか! 奮発したなぁ!」
「…………」
腹が減ってるからか、それとも単純に旨そうな匂いを漂わせているからか、俺はゴクリと唾を飲み込みながら空いている椅子に腰かけた。
「よしっ。んじゃ食うとするか……ゼファーバードの香草焼きはまず俺が一番に食べ――!?」
「むぐっ……もぐもぐ――ふぅ……美味い」
ゼンさんが何か言っていたが、一際美味そうないい匂いを漂わせているこの大きな鳥の丸焼きに手を伸ばしてかぶりつく。ジーンと胃に染み渡る、鳥のガツンとした味とあっさりとした香草の味のハーモニー……うめぇ。
つい素手で掴んでしまったが、この世界の食事のマナーなんて知らんから、しょうがないよな! と自分に言い聞かせながら食を進める。
「お、お前―! 家主が目の前にいんのにメインディッシュを我先に食うやつがいるかぁ!?」
「あらあら、よっぽどお腹が空いてたのねぇ……。はい、お水も飲まないと喉に詰まるわよ」
「ありがとうございます。……ぷはぁ」
さて、次はどれを食べようか。
次にどの料理を食べようかと吟味していると、体面に座っているゼンさんが俺を睨んでいた。
……え、なんで睨まれてんの?
「はぁ……まあいいか。母ちゃん、俺にも何か飲み物くれ」
「いつものでいいわよね」
そう言いながらリリナさんは陶器のポッドを取り出しゼンさんのコップに茶色い液体を注いでいた。それを横目で見ながら俺は料理を掻っ込む。最初に俺が素手で食べてるのを見ていたリリナさんはフォークとスプーンを渡してくれた。ありがたい。
お、この野菜炒めみたいなのも美味い。
「……ジン。お前には聞きたいことがいくつかある」
「んぐっ……はい」
ゼンさんはコップの中身を一口飲み、そう口にした。さっきまでとは違い真剣な目だ。
とりあえず今口に入ってるものだけ飲み込んで応答の準備をした。
「そうだな……――先ずはお前がここへ来た目的はなんだ? こんな辺境へ観光に来た……なんて言わないよな?」
少し思考した後、ゼンさんは冗談交じりに尋ねてきた。
……なんて答えればいいんだろう。地球で死んで、この体に前世の記憶を持ったまま転生してきました、なんて言えるはずがないし。かと言って名案が浮かぶわけもない。
「……まあ、お前にも言えない事情というものがあるよなぁ」
「えと、すいません……」
黙って熟考していた俺を見かねてか、ゼンさんは仕方ないと言う風に納得してくれた。
「じゃあ次だ。お前は『魔の森』からこの町に入って来たらしいな?」
「魔の森……? あの門の先に広がっている森の事を言っているのなら、はい。その通りです」
「……単刀直入に聞くが……ジン。お前は、『魔族』か?」
「ま、まぞく?」
その言葉に聞き覚えがない俺は首をかしげてしまう。
まぞくって、なんだ? 初めて聞く単語だ。
種族名っぽいけど……魔に族で魔族と呼ぶのか?
記憶が正しければ、メアリーに聞いた六つの種族の中に、魔族なんてものなかったはず……?
「……その様子だと、知らねぇみたいだな。つーことは、お前は魔族じゃねえってことだ」
「その、魔族って言うのは?」
「俺もそこまで詳しくはないが、俺たち人族とは容姿がかなり異なる種族のことを、総じて魔族と呼んでる」
「容姿の異なる……種族」
正直、ピンとこなかった。というのも、俺がこの世界で目を覚ましてから見た物と言えば、ゴブリンと人族、そしてメタルゴーレムこと、機兵だけだ。いかんせん情報が少ない。
「ああ。この大陸とは別の大陸に魔族たちは存在する……って言われてるな。『魔の森』を抜けると海を挟んですぐそばに別の大陸があるって話だ」
「そんな近くに別の大陸が……あれ? もしかして俺が疑われたのって……」
「ああ、お察しの通りだ。まあ疑ってたのは俺じゃなくて、ベルナのやつなんだけどな」
「べ、ベルナさん……」
確かに、すぐ隣に魔族が住む大陸が『魔の森』を挟んで存在してるとなると、その森から出てきた俺を魔族と疑うのは仕方がない……気がする。
「このことを話したらベルナも納得するだろうよ。まあ、俺は最初からジンが魔族じゃないってわかってたがな」
「ゼ、ゼンさん……」
「よしっ! この話は終わりだ! ――で、次なんだが」
「ま、まだあるんですか!?」
「ったりめぇだ! むしろこっちがメインなんだよ。……ああ、食べながらでいいぞ」
「あ、はい」
では遠慮なく。まだ手を付けてないのは……あ、この魚の煮つけみたいものが美味そうだ。
「お前がゴブリンの群れ討伐の依頼に行ってからしばらくして、とんでもねぇ魔力波をうちの魔法師感知してギルド室に――ああ、それと同時にカイルからお前がメタルゴーレムと交戦してるって血相を変えてうちの魔法師と一緒にギルド室に飛び込んできてな」
どうやらカイルは俺が逃げろと言った後に救援を呼びに行ってくれていたみたいだ。
「その知らせを聞いた俺は戦えるやつを引き連れてお前のとこに向かおうとして……ビビったぜ、ありゃ。空に向かってとんでもねぇ魔力の柱ができてるじゃねぇか。しかもその方角にお前がいるって聞いた時にゃ、耳を疑ったぜ」
その時の光景を思い出しているのか、ゼンさんは目を瞑って腕を組んだ。
「急いで駆けつけてみりゃあ、地面にでけえ穴が開いてるし、その中心でお前は倒れてるしで大変だったぞ」
「それに関しては本当に感謝しかないです……」
あんなところで仮死状態のまま放置されていたら、魔物や悪意を持った人間にどんなことをされていたのか。……想像したくないな。
「んでだ、俺が聞きてぇのは……魔力の柱のことなんだが――あの柱の中心にお前はいたんだろ?」
「ハイ、その通りです……けど、なんでわかったんですか?」
「詳しい方法は知らんが、うちの魔法師があの魔力の柱の発生源に人間がいるって感知してな。まあ案の定、ジン。お前だったけどな」
そこまで言い切ってからゼンさんはコップの中身を一気に仰いだ。
「……アレをやったのはお前だろ? あんなとんでもねぇのがこの町にブチかまされたら……こんな町粉々に吹き飛んじまうな」
「そ、そんなことしませんよ! それに、あの時はああするしかなくて……」
「ああいや、俺の言い方が悪かった。あの時の魔力の柱な、普通の人族にはまず生み出せねぇ。生み出せたとしても、そりゃ化け物だ。もう人間業じゃねぇよ。ジン、お前が魔族じゃないのはわかった。――なら一体何の種族だ?」
「……俺の種族は――」
機人族です。と言葉にされる前に『コンコン』、とドアをノックする音が聞こえてきた。
「お客さんかしら? はーい、今行きますよ」
「ったく、いま大事なところなのによ……」
今まで静かにこちらを見守っていたリリナさんは、来客へ対応するため立ち上がり玄関へ向かっていった。
そしてしばらくすると聞き覚えがある声が耳に入ってくる。
「兄ちゃんの見舞いに来ました!」
と、玄関からこちらまで聞こえてくる元気な声の主はカイルだった。




