14話 白い空間と家
仕事の休日を利用して投稿。
――気が付くと、真っ白な世界が眼前に広がっていた。どこまでも白く、どこまでも続いている……。
と思っていたら、前方に知らない男? が一人鎮座しているのに気づいた。白いスーツ姿の初老の男性。ぱっと見は全身が白いため、よく見ないと気づかない。
「む、ようやく目が覚めたか」
アンタ、誰?
「ああ、そういえば生前の日本での私の姿は知らぬのだったな。私は六道厳律。君を襲った機兵だった者だ」
あの機兵に転生してた人か。その様子を見るに、正気に戻った……?
「恥ずかしい限りだ。思えば、あの部屋を出てすぐに私の『心』に細工がされていたのだろう。君への憎しみが溢れるように」
憎しみ? それは、俺がアンタの体を奪ったってやつか?
「……私は頭では納得していた。だが、心のどこかで納得できていなかったのだろう……それが小さな憎しみになり、それを増幅させられた。結果として君に襲撃をかけてしまった。まったく、恥ずかしい限りだ……。本来、私はきみの補助をする役割を担うはずだったのだが……」
そこで六道は右手首を注視する。
「おっと、時間がないようだ。君がこの空間で目を覚めたということは、現実の体も起きる頃だろう」
結局ここはどこなんだ? 夢なのか? ……夢にしては、色々おかしいけど。
「君の考えている通り、一番近いのは夢だろう。まあ正確には違うのだがね。……さて、そろそろ私の仕事をしようとするか」
仕事? そういえば俺の『補助』が役割とかなんとか言ってたか?
「うむ。今となっては体がないのでね。女神によってこの空間を設けさせてもらった。なに、私は導くだけだ」
導くって……どうやって? っていうか女神って……。
「導くこと自体は簡単だ。問題はここにいる間の記憶を現実に持ち越せないことなのだ。なぜこうもめんどくさいことになっているのかは、君自身が女神に尋ねなさい」
六道は嘆息しながらそう言った。ていうか、記憶を持ちこせないって、どうすんだよ。
「――すまなかったな、風祭仁くん。わたしのせいで遠回りをさせてしまい、そして迷惑もかけてしまった」
……なんで俺のフルネームを知ってるんだ? アンタ、本当に何者なんだ?
「覚えていないのなら、それで結構。だが、今の謝罪には二重の意味が込められている、とだけ覚えておいてほしい」
それってどういう意味なんだ?
「時間だ。そのあたりも女神に聞くといいだろう」
六道のその言葉を最後に、俺の意識は――――。六道?
☆
「……」
なんだかお決まりのようなセリフを言いたい。いや、言ってしまおう。
「知らない天井だな」
『マスター、お目覚めですか』
なんだか久しぶりに聞いた気がする。この頭の中に響く機械音声。
「メアリー。俺はどれくらいのあいだ気を失ってたんだ?」
『242時間と42分15秒です』
わお。凄く細かいけど、流石メアリーだ。……って、約240時間も?
「十日間も俺は気を失ってたのか」
よく魔物に襲われなかったな……いや、違う。天井があるんだから、ここはどこかの屋内のはずだ。それにベッドにも寝ているんだし。
うーん、寝起きでボケてるな。しっかりしないと。
俺はバンッと両頬叩き、ベッドから降りた。……と、同時に俺の腹から『ググウウウウ~』というとんでもなく大きい腹の虫が鳴る。
「…………腹減った」
『現在のマスターの体内魔力は5%です。早急に食物の摂取を推奨します』
「げっ」
5%って、また仮死状態になっちまうじゃねーか。また十日間も寝っぱなしは流石に勘弁したい。
「とりあえず、ここがどこか確認をしてから食事を――」
――『ガチャリ』と背後からそんな音が聞こえ、振り向くとドアが開いており、そこに立っていたのは……知らない女性だった。この家の家主だろうか?
「……あらあら! お目覚めですか! あなたー! この子が目を覚ましましたよー!」
その女性は顏だけを部屋から出してそう声を張り上げた。他にも誰かいるのか?
「なにィー!?」
と、返ってきた声はさらに大きい男の声。ついで慌ただしい音を立てながらこっちに近づいてくるのがわかる。……あれ? なんか聞いたことがある声だなー。
と思っていたら案の定。
「ジン! やっっっと起きやがったか! 心配させやがって!……ぐむ」
髭面の男が両腕を広げ、俺に向かって突撃をかましてきたので、蹴りでそれを阻止する。むさ苦しいハグは遠慮する。
「って、ゼンさん? なんでここに?」
「いてて……そりゃおめぇ、ここは俺ん家だからな」
「……なんで俺はゼンさんの家に?」
「んなこたぁ飯食いながら話してやるよ! かあちゃん! コイツと俺の飯、用意してあるか?」
ゼンさんがそういうと、女性はパチリとウインクをした。
「もちろんあるわよ。すぐ用意するから、アナタと……ジンくんでいいかしら?」
「あ、はい大丈夫です」
ニコリと笑みを浮かばせるとその女性は自己紹介をしてくれた。
「わたしはそこにいるゼンの妻、リリナよ。ここにいる間はわたしのことをお母さんと思っていいからね?」
「ッは、はい!」
「ふふ、初心ねぇ……」
花が咲いたような笑顔を見せた後、リリナさんは部屋を出て行った。
……すげー母性を感じた。俺の母親並だな、うん。
俺は納得したかのように頷いていると、ゼンさんがなにやらニヤニヤしているのに気づいた。
「……いい女だろ? 惚れるなよ? もう俺の女だからな」
「……惚れないですよ」
ニヤニヤとしたヒゲ面でそう言われるとなんかムカつく。なんでこんなおっさんなんかと一緒になったのか……とても不思議だ。
「んじゃ俺についてこい。メシをたらふく食わしてやる。十日も食ってねぇ、おめぇの腹がうるせえしな。カッカッカ!」
「……ご馳走になります」
今も鳴っている俺の腹の虫だが、ゼンさんにも聞こえているようだった。すげー恥ずかしい。
そして、そのあと俺はゼン一家の食卓へと招かれたのだった。




