13話 後始末
休みの日を利用して投稿。最新話より、改稿を優先して進めています。
「転生するはずだった体って……どういうことか詳しく教えてくれ」
「……冥途の土産に教えてやろうと思ったが、どうやら発動するのが思ったより早かったようだ、くくっ」
「……? なに言って――『マスター!』」
突然、頭の中で『ビーッ!ビーッ!』という警報音のようなけたたましい音が鳴り響く。
俺はびっくりして掴んでいた六道を落っことしてしまう。
「なんだこの音!?」
『この魔力反応は……次元崩壊レベル!? マスター! 今すぐこの場から離脱してください!』
「おい! 一体なにをしようとしてるんだ!」
「フハハハハハ! もう遅い! 既に貴様は逃れられんよ! 私もろとも砕け散るがいい!」
高笑いを続ける六道の頭部がゆっくりと横に開いていき、コアらしきものが妖しく発光を繰り返していた。
くそ! 危険なことが起こるのは俺でもわかる!
けど、どうしたらいいんだ!?
「メアリー!」
困ったときのメアリー先生だ!
『時間がありません! この危機を脱する方法としては一つあります! そして、確率が一番高いです。……しかし、マスターに危険が及ぶ可能性も同時に高いのです!』
なにか葛藤を含んだ声でメアリーはそう叫んだ。
何か方法があるんなら、やらないよりやるほうがいい。危険があろうが死ぬよりましのはずだ!
「――その方法を試す! どうしたらいい?」
『……では指示をだします。まず機兵の露出しているコアに手を触れてください』
俺は地面に横たわって未だに壊れたように高笑いを続ける六道の頭部のコアをむんずと掴む。
「グギャガ!? き、きさまなにをしている!?」
六道が何かを言っているが、俺の耳には入らん。
メアリーから次の指示を待つ。
『次はそのコアから魔力を『吸い取る』というイメージを行ってください』
「魔力を吸い取る……」
……え、わからん。魔力を……吸い取る? そもそも魔力がどういうものなのかすらわからーん!
人の体や大気中にあるナニかってイメージしか俺にはない。
俺が思考しながらあたふたと慌てていると、メアリーから救いの言葉が授けられる。
『私もアシストします! 魔力とは体の中を廻る水のようなものと思って行動してください!』
水か! 水ならイメージしやすい……そうなると、ポンプで水を吸い上げるイメージをしたらいいのか?
そう考え、俺は目を瞑り掴んでいるコアに意識を集中する。すると――
「お、おお? なんか違和感があるが、何かが俺の体に流れ込んでいる感覚がする」
『成功です。では、そのイメージをさらに強く意識し、そのコアからすべての魔力を――全力で奪ってください!』
その言葉の直後、体の中にズシンと重い衝撃が突き抜ける。
「くっ……!」
「ぐああああ!? きさまああああ! 私になにをしているのだぁぁぁ!?」
……思ったより、キツイ。
このコアから流れ込んでくる魔力が、俺の体に溜まっていくこの感覚。体の所々に徐々に重りを付けられていっていると錯覚するほどの激しい疲労と倦怠感。まだ始めて数秒しか経っていないのにこれである。
「これ、いつまで魔力を吸い上げたらいいんだ?」
『まだ魔力濃度は危険レベルを維持しています……』
……そうか。なら俺は我慢してこの作業を続行するか。
「フッ、フハハ……何をしているのかは知らんが、無駄なことはやめ――!?」
「うるせぇ。今集中してるんだから黙ってろポンコツ」
空いていた左手を六道のそのやかましい口に突っ込んで黙らせる。再び目を瞑り、意識をコアに集中させていく。さっきは吸い取るイメージで行っていたが、今度はそのイメージをさらに強く――さっきが弱とすると、今度は強に。
「ぐっ……うぉ……」
相対的に俺の体への負荷もかかっていく。例えるなら重症レベルにまで至った風邪って感じか?
とにかく体が重いし、頭痛もしてきた。数秒前から危険アラートと称した騒音が頭の中で鳴り響き、俺の視界が赤に染まっていく。コアも心なしか点滅しはじめていた。
「……メアリー! まだなのか!?」
これ以上魔力を吸い上げると俺の体が壊れる気が……いや、絶対に壊れる。確信をもってそう言える。
俺の体の節々から煙が上がり、小刻みに震え始めた。
『魔力反応確認……爆発規模……小規模! マスター! そのコアから手を放してください!』
その言葉に声ではなく、頷いて返し、掴んでいたコアを投げ捨て、ついでに六道もそこに放り投げた。
「クハハ! みよ! これが私の切り札! カオスエクスプロージョンだ――ッ!」
――瞬間、閃光と轟音が爆ぜる。そして爆風と砂煙が辺りを覆い尽くした。
俺は咄嗟に全力でその場を離脱し、体を丸めて防御態勢になりその場を凌ぐ。
「ぐおお……!」
「終わった、のか?」
俺は重い体を引きずるように爆発が起こった場所に足を進めていく。すると、爆心地が見えてくる。
「こんなもん、間近で喰らったらバラバラになってたな」
目の前にある巨大なクレーターを前にそう呟いた。
そのあと俺はそこに座り込み、溜息を一つ。
「疲れた」
もうそれしか考えられん。はやくどこかでいますぐ休息をとりたい。体がダルすぎる。こんなに体が疲れたのは、爺さんの稽古以来……いや、それ以上の疲労だ。
「……とりあえず、町に戻るか……」
『マスター! はやくその魔力を解放しないとマスターの体が崩壊してしまいます!!』
「え?」
そういえば、吸い取った魔力は俺の体に溜まっているよな。……つまり?
『次元崩壊レベルの魔力です! そんな量の魔力を維持できるほどマスターの体は高性能ではありません!』
「っ! どうすればいい!?」
何度も頼って悪いが、俺に対処法なんてわかるはずがない!
『両腕を空に向けてください! あとは私がアシストを行います!』
「わ、わかった!」
言われた通り俺は両腕を空に掲げ、手の平を向けた。すると、『ガション』という音と共に俺の手首が折れ曲がった。
……ま、曲がったー!?
「うええ!? ちょ、これ大丈夫なのか!?」
『大丈夫です! 体内魔力を全て……いや、少しだけ残し、腕砲に全集中! ――マスター! 足を踏ん張ってください! 大きな衝撃が発生します! そして両手は決して降ろさぬよう注意を!』
その指示を聞いた俺は足のブースターをふかし始め、衝撃に備えた。一体何が始まるんだ……。
『では――魔力圧縮開始……10%……30%……50%……90%――魔力収束破壊砲、発動します!』
その直後、俺の体に途轍もない衝撃が襲う。足が地面にめり込むが、足で煌めく炎がそれを押し返して浮上していく。
「ぐっ……これは、中々ッ……!」
両手から『ゴウッ!』という聞きなれない轟音を響かせながら、紫色のビームのようなものが空に向かって放射される。それは例えるなら、天への光の奔流。聳え立つ紫の塔。天罰。
そんな詩的な表現が似合うほどの圧倒的な光景だった。
それと同時に、俺の体に纏わりついていた倦怠感が徐々に薄れていっていることに気づいた。
その後、数十秒の間俺は空に向かって手を掲げ続け、光の奔流が収まると同時にメアリーの声が響く。
『魔力の放出を停止します。……マスター、これで魔力爆発の危険性はなくなりました――』
「そ、そうか。これでやっと終わりか」
流石にもうなにもないよな? 疲れて歩きたくないが、町に戻らないといけない。
『――すみませんマスター』
なぜか突然メアリーが謝ってきた。さっきの出来事の事だろうか。別に俺は気にしてない、と言えばウソになるが……。
「気にするなよメアリー。情報はあまり手に入らなかったけど、こうして生きてるんだしな」
『はい。しかし、再度謝らなければいけません。緊急事態とはいえ、マスターの体を勝手に操作しあまつさえ、体内魔力の9割を使用してしまいました』
「だから気にしてないって――」
『――そのため、体内魔力が活動するのに不足しているため、マスターはただいまをもって、仮死状態へ移行します。重ね重ね、申し訳ございません』
「……ん? スリープモードって確か……」
確かメアリーから聞いたことがある。魔力が足りないと体が仮死状態に陥ると。
……それってつまり――ありゃ。
俺の体がゆっくりと前のめりに倒れていく。
目の前に近づいていく地面を最後に――俺の意識はブラックアウトした。
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2019 十月五日 加筆と修正、改行などしました




