決断
気族には生まれ変わりの概念…そもそも一般的に抽象概念が乏しい。
もとより我々亜神も…余のような転生者とても来世の保証は持っていないのだが。
それでも概念があるのと、生身の感情だけで死を捉えるのとでは全然違う。
我々亜神はなまじ知識・概念があるから死についての感性が鈍い弊害もあるのだが。
抽象的な死の恐怖はさておいてプヨブヨ長老の話は続く。
…私の古い友達のフワブワは魔王一党から逃げ切りました。しかし雲族は何人も殺されました…
(それで敵の個体名がある程度解ったのか。金爪は石英球で見たが毒針とは…?)
…フワブワは「緑の池」に逃げ込みました…
「なぜそれを先に言わないの?!」
声をあげたのは林兵部卿。
…あなたは…ベリル…
空気を震わせてつくる声からは感情は読めないが。身に帯びた銀光がやや燻んだ。知人を忘れて動揺したのか。
だが。嗚呼。余も忘れていた…長く生き過ぎた。
この人が「緑の池」の女王ベリルだ。
何千年前だったか…「緑の池」の主ベリルが
我が朝廷に列したとき。
この人の名を公文書に容易に書けなかった。
長短の線を縦横に組み合わせた「エルフ文字」は他の亜神には識別困難だった。
だからこの人の通称をBerylとするとともに。王臣としての名「林翠玉」を賜ったのだ。
「陛下!池に戻ります」
(もし「緑の池」が落ちていたら林兵部卿まで討たれるかも知れない…なぜここに石英球もカルタもないのか)
余の一刹那の迷いを払って声が響く。
「林兵部。大儀である」
占具などなくとも「緑の池」にまで魔王が来ているかいないかは容易に知れること、もし来ていればプヨブヨ長老が参議会などに来ていない。
だが兵部卿が官府を空けることはマイナスである。
帰国を許すとしても連絡手段やフワブワの体調が戻り次第に参考人として召喚する段取りも必要ではある。
だが。
そういったことよりも。
君王が帰国許可を即答するメリットが大きいという高い決断であった。
「エルフ文字」
縦横に置かれた枝を象ったとされる。
他族には読めない。
↓どれが何の文字かおわかりでしょうか?
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