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瞬殺キャラ バトルロワイヤル ~数コマで退場した脇役100人が、主役転生権を奪い合う~  作者: 東の雲
バトルロワイヤル開始

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8/9

二回目の男

 記憶というのは、足の裏から戻ってくるものらしい。

 高台に転送され、硬い地面に足がついた瞬間、全部思い出した。

 一度目の人生。二度目の人生。そして、一度目のバトルロワイヤル。


 一度目の俺は、ガルド。異世界ギルド漫画『無職のおっさん、SSランクの山羊に生まれ変わる』の、ガラの悪い冒険者だった。


 一コマ目。「なんだこの山羊は、ここはお前みたいなのが来る場所じゃねぇ」。

 二コマ目。主人公の体当たり一発で、壁にめり込んで終わり。


 そして、俺は瞬殺キャラばかり集められたバトルロワイヤルに参加させられることになった。


 バトルロワイヤルで、俺は中盤まで残った。四十人以上が脱落してから。だが、最後まではいかなかった。

 誰に倒されたのかは、なぜか、どうしても思い出せない。まあ、どうせ、運が悪かっただけだ。


 脱落して、記憶を失い、また新しいモブとしての人生に放り込まれた。


 二度目の俺は、轟力也。学園異能力バトル漫画『最強はぼっち席』の、上級生A。


 一コマ目。「新入生の分際で、生意気なんだよ」。

 二コマ目。主人公のくしゃみで、窓の外へ飛んで終わり。


 一度目も、二度目も、新入りに絡んで、一コマ半で消えた。


 我ながら、芸のない人生だ。


 そうして、俺は再びこのバトルロワイヤルに召喚された。


 高台を見渡す。森、雪山、渓谷、古代遺跡、霧の港。福袋のようにごちゃ混ぜの地形。


 この配置には、見覚えがあった。前回と、ほぼ同じだ。


 つまり。

 どこに何があるか、俺は知っている。

 周りの連中を見下ろして、俺は口の端を吊り上げた。

 どいつもこいつも、初めての顔だ。右往左往して、ぎゃあぎゃあ騒いで、天の声にいちいち質問している。


「能力って指定できるんですか?」だと。笑わせる。聞かなくても、前回と同じ答えが返ってくる。

 案の定、天の声が、舌打ちした。

『だからてめーらはモブなんだよ』

 その台詞も、前回とほぼ、同じだった。


 新入りは、これだから困る。

「お久しぶりです、轟様」

 足元から、気の抜けた声がした。

 羊の形をした、もこもこの白い生き物が、ふわりと浮いている。額には、小さな丸眼鏡。


 『ぼっち魔王と放課後ヒーローズ』の公式マスコット、モフリー。全二十六巻。前回も、俺の担当だった。

「ああ、モフ公か。せいぜい役に立てよ」

「承りました。前回も、似たようなことを仰っていましたが」

 この羊は、いつも一言多い。

「二回目の俺には、地の利がある。あと、何か特典はないのか。ポイントカードとか」

「ございません。当店は、一見様も常連様も、平等でございます」

「当店って言うな」


 俺の能力は、前回と同じ【先輩風(センパイ・ブリーズ)】。


 この能力は「おい、お前、知ってるか?」と話しかけ、相手の知らない雑学を言うと、三十秒間、相手の攻撃を無効化できる。


 ただし、もし相手が知っていることであった場合には三十秒間、相手からの攻撃を倍の威力で喰らってしまう。

 諸刃の剣のような能力である。


「前回と同じ能力か。前回の経験をそのまま全て活かせる。これは俺のための大会だ」


「二回目の方は、皆さんそう仰る傾向がございます」


「黙れっ」


 今回の方針は、決まっていた。

 まず、武器を集める。前回、手に入れそこねた、あの武器を。

 最初に転送された場所は、目的地から遠かった。


 頭の中で地図を描き直して、愕然とした。目的地である『幻光の森林』まで、歩いて七日。

 災難である。


 しかも、幻光の森林は隠しエリアだ。入口の手順は、前回、焚き火の端で聞いた。決まった順番で、三つの目印を回らなければ、森は開かない。

 本来ここは、しばらく先に開催されるイベントの為のエリアなのだ。


 新入りが、偶然見つけられる場所じゃない。ここへ来られるのは、俺だけだ。


 前回の傾向からして、モブ達はみんなビビって行動しない。十日程は武器集めや、能力の把握などで時間を費やすはず。


 その後に、痺れを切らした運営が、イベントを発生させて、バトルロワイヤルを加熱させる。


 つまり、イベントが始まる十日までに装備を整えておくことが何よりも重要なのだ。


 そして、もう一つ大事なのは、『役力』を上げること。


 天の声や精霊達から、最初には説明がされていないが、参加者には『役力』という経験値のようなものがある。


 参加者を倒すことや、モブらしからぬ、主役のような行動をすることで『役力』は上がる。


 役力を貯めると、特殊能力が強化されていくのだ。

 俺は前回、能力を三段階まで上げ、攻撃の無効化から攻撃の反射へと能力を進化させていた。


 だが、今は役力は気にしない。


 いくらこのバトルロワイヤル経験者といえ、装備が整っていない状態で戦いに挑んでも、相手の基礎能力や特殊能力次第では負ける可能性もある。


 だから、今は全てのことを投げ打ってでも幻光の森林へと向かう。


 途中で様々なエリアを通り抜けてゆく。


 他の参加者に出くわさないように、細心の注意を払いながら、かつ迅速に。


 四日目の昼、ジャングルを迂回している最中に、遠くから声が響いた。


「ヒィィィヤァァァ! ヒャッハァァァー!」


 鳥が一斉に飛び立つ。しばらくして、また。


「ヒィィィヤァァァ!」


「轟様。方角は東、距離は一キロほどかと。奇声の直後に、何かを殴るような音も」


「内輪揉めだろう。どうでもいい」


「前回も、似たような方がいらっしゃいました」


「ああ。ああいう奴は、真っ先に死ぬ。モブの中のモブだ」


 奇声は、その後も、一定の間隔で響いていた。あれだけ叫べば、敵を呼び寄せる。関わる価値もない。


 あんなバカは例外だ。大多数は、まだ震えて動けずにいる。俺は、そう決めつけて先を急いだ。


 七日目の夕暮れ、ようやく、目当ての場所へ辿り着いた。

 森の入口に立ち、三つの目印を、決まった順番で回る。古い石碑。折れた枝の道標。苔むした井戸。

 最後の井戸に手をかざすと、霧のような光が、ふっと割れた。


 幻光の森林。

 木々の根元から、淡い青緑の光が溢れている。空気中を、光の粒が漂う。

 魔法が存在する世界の妖精が住んでるエリアを再現したと前回聞いたことがある。


「綺麗ですね」


「虫だろ。ただの、光る虫だ」


「情緒がございません」


 この森の奥の、古い大樹の根元。そこに、宝箱が隠されている。


 中身は、『ウィンドシューター』。風属性の魔法銃だ。


 空気の弾丸を放つこの武器は、殺傷力こそ低い。直撃しても人を殺すほどの威力はないが、まともに食らえば、全身を強烈な突風で殴られたような衝撃が走る。痛みで体勢を崩すくらいには効くのだ。


 だが、最大の利点は弾切れがないこと。次の弾を撃つまで十秒の溜めが必要だが、五十メートル以内なら十分な威力を保てる。


 殺しきれなくとも、遠くから一方的に攻撃できる。その優位性は、圧倒的だ。


 前回、この武器を使っていた奴は、有利に戦っていた。


 俺は前回、その持ち主とは一時的に手を組んでいた。

 焚き火の端で、その自慢話を聞いた。「幻光の森林で拾ったのよ、いい武器でしょう」と。

 顔は、もう思い出せない。覚えているのは、得意げな声と、特徴的なイントネーションだけだ。

 その持ち主が、最後まで勝ち残ったのかどうかは、知らない。俺が、先に脱落したからだ。


 森を進むうち、小枝を踏む音が、微かに聞こえた気がした。


「轟様。後ろに、何か」


「風だ。新入りに、俺の足跡が追えるものか」


「ですが」


「黙れ」


 しばらく進むと、また、小さな音がした。


「轟様」


「黙れと言った」


 羊は、何も言わなくなった。

 大樹の根元に、苔に覆われた木箱があった。

 見つけた。ここだ。


「ははは! 全部、前回のままだ!」


 思わず、笑いが漏れた。


 これは、俺のための大会だ。前回の経験を活かし、地形を知り、武器を押さえ、他の連中が右往左往している間に、一人で先へ進む。優勝は、決まったようなものだ。


 他の連中は、全員モブだ。

 ……俺も、モブだが。二回目のモブだ。そこが違う。

 箱の蓋に、手をかけた。

 これで、俺の勝ちだ。


 ――ずぶり。


 背中に、冷たい衝撃が走った。

 胸から、金属の先端が突き出している。矢じり。太い矢だ。熱いものが、喉の奥からせり上がる。全身の傷口から、光の粒が、噴き出していく。


「なん……だと……」


 振り返る。

 青い光の中に、女が立っていた。ボウガンを、片手で構えている。長い黒髪。冷めた目。


「轟様」


 モフリーが、静かに言った。


「すぐに能力を発動して、攻撃を無効化してください。既に受けた攻撃は無効にできませんが、これ以上のダメージは致命傷になります」


「……わかってる。能力を発動させる」


 今の一撃、急所は何とか外れている。しかし、これ以上の追撃を許してはいけない。

 相手の知らない雑学、情報は何か? 頭をフルで回転させる。


 焦りで、まともな知識が出てこない。口をついて出たのは、一番ありふれた情報だった。


「おい、お前、知っているか? ここの木箱の中にはな、バトルロワイヤルに有利な魔法銃が入っているんだ」


 言い終えた瞬間、背筋が凍った。

 ……しまった。ここまで辿り着いた者なら、誰でも知っている。


 二発目のボウガンが、右肩を貫いた。

 さっきの倍の勢いで、アニマが噴き出す。


「ぐあああっ!」


 倍だ。能力の代償が、そのまま返ってきた。


「もちろん知っているわ。そもそも、この幻光の森林は隠しエリア。入るのにルートの手順が必要なんだもの」


「貴様、一体…」


「あなた、自分だけが二回目だと思っていたの?」


 女は、ボウガンを下ろした。


「他にも、過去の参加者がいるという発想は、なかった? モブは何回死んでもモブの発想から抜け出せないのかしら? まぁ、私も人のこと言える立場じゃないけれど」


「お前……は……」


 そのイントネーションに、聞き覚えがあった。

 焚き火の端で、得意げに笑っていた、あの声だ。


「あなたのことは覚えているわ。前回、私と一時的に手を組んでいたガルドでしょ?」


 女は、静かに言った。


「ここへ来るのは、あなただと思っていた。高台に集められた時に、ニヤニヤして余裕そうにしてたから、すぐに二回目の参加者だってわかったわ」


「しかし、それが俺だと何故わかった。前回の参加時と姿は変わっているのに…」


「あなた自分の癖に気づいてないの?それが何か教えるつもりはないけれど」


「癖…だと?」


 色々と思い返してみるが、自分ではなにも分からなかった。


「まぁ、そんな話はどうでもいいわ。それだけアニマが放出してたら、もう満足に動けないでしょう」


「くそっ」


「さっきの発言からして、あなたの能力は前回と同じね?あなたが二倍のダメージを受ける時間はまだ残ってる」

 

 彼女は、俺の脇を通り抜けて、箱の蓋を開けた。白い銃身に、緑の宝玉。ウィンドシューターが、青い光の中で光っていた。


「ま、待て……」


 口が、勝手に動いた。


「組もう。二回目同士だ。手を組めば、最後まで生き残れる。な? 悪い話じゃないだろう。俺たちが最後の二人になるまで協力するんだ」


 女は、手を止めた。ゆっくりと、こちらを見る。


「それ、前回の私が、あなたに言ったのよ」


「……え」


「焚き火の端で。『最後まで一緒に組まない?』って。あなたは、薄ら笑いで『手を組むのはここまでだ』って断った。覚えてないでしょうね」


 覚えていなかった。

 本当に、まったく、覚えていなかった。


 彼女は、負傷した俺には目もくれず、箱の中のウィンドシューターを手に取った。


 最後の力で、彼女の足首へ手を伸ばした。

 届かなかった。指は、ただ空を掴んだ。


「そして、あなたの結末も前回と同じ…私に葬られる」


「えっ?」


 彼女はウィンドシューターの引き金を引いた。

 大きな負傷を負っている上に、能力の副作用で倍のダメージを背負っている今、俺に止めを刺すのは、殺傷能力の低いウィンドシューターでも充分だった。


「これで私は『ウィンドシューター』だけじゃなく、『役力』も手に入れられた。感謝するわ」

 

 彼女は俺を振り返ることもなく、その場を後にした。


 手の先、足の先から、光へ変わっていき、体が軽くなってゆく。

 どこかから、感情のない声が降ってきた。


『脱落者、一名。上級生A』


 一度目は、ガルド。二度目は、轟力也。

 この世界での最後に、どちらの名前も呼ばれることはなかった。


 あぁ、またモブとして、悲しい人生を送るのか。

 もし、次にまた、ここへ来ることがあるなら。

 次こそは。


「前回も、同じことを仰っておりました」


 羊の声が、遠くで聞こえた。

 ……そうだったか。

 俺は、前回も同じことを思いながら、消えたのか。

 最後の光が、風に溶けた。

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