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ロボットが子どもの前を通るたびはしゃぐ声が聞こえてきた。一方俺たちはと言うと、全員スマートフォンに夢中だ。
財布を失くしてしまったため、料理を頼まずドリンクだけで我慢することにした。颯が戻って探そうかと気を利かせてくれたが、諦めると言うと勝矢が食事代を持ってくれることに。正直、空腹は限界にあったし、勝矢は遠慮しないでと言ってくれた。食欲をそそる写真に指が吸いこまれる。
「あんな事しておいて、食べられるのかな」
「え?」
ハンバーグを頼もうとした手にブレーキがかかった。佐環は深刻そうに「私だったら無理だよ」と眉をひそめている。
「よせ。あの事は忘れようと言ったはずだ」
「颯はいいよね。簡単に切り替えられるんだから」
颯の言葉に嗣乃が横やりを入れた。
すると「どういう意味だよ?」と腕組みをして威圧的な姿勢を取る。
「ちょっとふたりとも。騒ぎを起こしたら本末転倒だから。それに、僕たちには話し合わなければいけないことがたくさんある」
勝矢が抑え気味の音量で止めに入った。佐環も心配そうに両者を見る。
俺はハンバーグではなくパンケーキを注文した後、「とりあえず、水飲んで落ち着こう」と人数分注いだお冷を渡す。軽快な音楽を鳴らしながら、配膳ロボットがすぐ横を通り過ぎた。
運命共同体。お互いの弱みや秘密を握り合わなければ始まらない。
よく知る人物は勝矢だ。彼の秘密は実の父親に逮捕歴があること。彼が幼い頃、公務執行妨害によるものだった。ネットで調べれば簡単に出てくるであろうその過去が、彼にとってどれほど隠したいものなのか……。しかしながら、彼自身についての秘密や弱みについては、すぐに思い浮かばない。
俺にも秘密や弱みはないと思っている。ただ、佐環や嗣乃、颯については怪しいところがある。
まず、佐環の父親は会社の重役で、彼女の地元では強い権力を持っているということ。その会社はグレーな噂が絶えないと、サークル内で耳にした。
嗣乃はパパ活や風俗など身を売る仕事をしているのではと、颯が面白半分に言っていた。彼女のSNSで、高級ブランドのネックレスやバッグなどをたまに投稿している。本人曰く、家庭教師のバイトで稼いでいるらしい。嗣乃は嘘をついていないと思う。食費を浮かせるために大学には弁当を持参したり、短い距離は電車やバスに乗らず自転車で移動するなど、努力を惜しまない姿を知っているから。
颯については、彼が中学生時代、野球部内で起きたいじめの主犯格だったのではないかと疑われていた。ある野球部員がクラス中に言いふらしていたが、本人は否定している。レギュラーを取られたことによる腹いせだ、と。
「で、本題のお互いの秘密についてだけど、これと言って無いんだよね。不平等を避けるために、実家の住所と勤務先を教え合うってのはどう?」
勝矢がコップを置く。
「いいと思う。私も隠しごとなんて無いし。あと、二年ごとに集まって近況報告会を設ける、も追加で」
「GPSをオンにするのはやり過ぎか。SNSでいつでも連絡が取れるようにしよう」
「住所だけでなくて、車の車種やナンバーも記録しておこう」
次から次へ会話が進む。
お互いの弱みを握りあうという提案は有耶無耶にされた。個人的に名案だと思っていただけに不安を感じる。立場は同じだと分かっていても。
あの瞬間、俺は犯人と同様の経験を得たと思っている。事故の瞬間を、全身で受け止めた。目を閉じようが耳を塞ごうとも、記憶は突き抜けてくる。
飲酒運転によるひき逃げ事故は完全に犯人たちに非がある。それにも関わらず、自己防衛のため逃避する。たとえ、自分たちの行動による結果であっても人間はあまりに悲惨で受け入れ難い出来事をフィクションだと思い込みたくなる。
「まとめると、この五人が個人的に接触するのは極力避けること。緊急の場合は、SNSに場所と一緒にいる人物の画像を投稿し、情報を共有し合うこと。次に全員再会する時は二年後の今日。あの事について、原則他言無用。でいい?」




