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「なるほどね。というか、もうこんな時間か……。昨日無理してでも運転すればよかった」
「とにかく、何か訊かれたらありのままを話そう。花火やゴミは片付けたし、酒も飲んでない。やましいことなんて、していないんだ」
勝矢が言った。昔から冷静で、笑うことはあっても、怒ったり泣いたりすることはなかった。人前では涙を流さない主義なのかもしれないが、感情の起伏はかなり少ないと思う。かと言って、薄情な性格などではなく、義理堅いところがある。肌が白く切れ長の目、背も平均よりやや高め。学生時代は密かにモテていた。
再び警官が俺たちのところへやってきた。個別に話を訊きたいと言われたため全員車を降り、渋々応じることにした。
どこから来たのか、何しに来たのか、何時ごろからいるのか、他の四人とはどういった関係か、怪しい人や車を見なかったか、何かがぶつかる音や叫び声を聞かなかったか……。
事故に関する質問については「知らない」と答えた。最後に「何かあったらP市警察署まで」と言い残し、彼らはパトカーへ乗り込んだ。しかし、それが完全に去って行くまで安心はできなかった。米粒くらいの大きさになったところで、隣に立っていた佐環がため息をつく。
「私の車、グレーだから怪しまれたみたい。一応黒っぽい色をしてるからかな。しかもこの前壁にぶつけた傷、修理してもらうの忘れちゃって。まぁ、そこまで目立った傷じゃなかったからよかったけど」
傷と言えば、ひき逃げ犯の車にはカンガルーバーが装着されていると思っていたが、違ったか。
「あのさ、例の車ってカンガルーバーみたいなの着いていなかった?」
「カンガルーバーって、バンパー周りに装着する格子みたいなやつ?」
「そう、そう。見間違いだったかな……」
「見間違いじゃないよ、覚えているもの。颯や佐環の車と比べて、やけに出っ張っているなって」
「やっぱりそうだよね。嗣乃が言うなら、間違いないな」
嗣乃は一度見たものを記憶し、詳細に再現することができる映像記憶を持っている。その才能を活かし、英語や中国語を習得。五人の内、真っ先に貿易会社への内定を勝ち取った。
とても優秀な彼女がお世辞にも一流と呼べないQ大学へ進学した理由は、特待生制度を受けるため。三人姉妹の長女である彼女は親に負担をかけたくなかったと語ってくれた。
前髪をターバンで上げ、明るい茶髪を後ろでまとめている。奥二重でアイラインを目じりまで引いたメイクは佐環とは異なるエキゾチックな魅力を持っている。
女優を目指してみればいいのに。
彼女とミュージカルを観に行った時、直感的に思った。
ただの絵空事ではない。佐環と比べれば容姿は劣るかもしれない。だけど、彼女には観るものを惹き込む魅力がある。
「それより、飯食おう。腹減ってしょうがない」
いつの間にか乗っていた颯が運転席から顔を出す。
「賛成。けど、帰り道のファミレスしか開いていないみたい」
俺は地図アプリで近くの飲食店を検索する。周辺は自然あふれる長閑な街。あるのは山とファミレスとスーパーマーケットぐらいだ。
「食べられれば何でもいい。さ、行くぞ」
俺たちは車に乗り込んだ。颯はギアをドライブに入れ、シートベルトをしながらハンドルを回した。佐環たちが動き出したことを確認し、アクセルを踏む。
緩いパーマのかかった髪が揺れる。鼻が高く、意志の強さを象徴するような眉毛と眼差しの強さ。CMに起用されそうな爽やかさがある。
颯はスポーツ推薦で野球の強豪であるQ大学に入学した。残念ながらケガが絶えず、活躍の場を与えてもらえないまま野球を辞めたらしい。
ファミレスに着くと駐車場は混雑していたが、幸い六人掛けの席は空いていた。最近のファミレスはタブレット端末で注文するだけでなく、提供用のロボットの運用が始まっている。




