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——まぁ、被害者とどこで知り合ったかまでは曖昧なままだね。真実を知りたいところだけど、人の過去を詮索するのは良くない。
勝矢のコメントを読み、冷静になる。そうだ。俺たちは結束したばかりだ。
——それもそうだな。ただの偶然であることを信じよう。
グッドマークの絵文字を確認し、彼との会話を全部消した。
スマートフォンをポケットにしまうと、空気が抜けたボールのように体がシートにへばりついた。
これから自分たちの身に起こる、全貌を知ることができたなら。それでも俺は逃亡者として生きることを選択するのだろうか。
コン、コン、コン。
ゆっくりと片目を開ける。軽快なノック音の合間に籠ったような音。その正体は、警察官たちが車窓越しに俺たちへ呼びかけている音だった。
急いで起き上がる。颯と勝矢はまだ熟睡している。体中が痛み出す中、手を伸ばしエンジンスタートボタンを押した。カーナビが起動したため、オーディオをオフにする。ディスプレイに表示された時間は九時三十二分。アラームをかけていたはずなのに、全く気付けなかった。
三分の一ほど下がったところで、パワーウィンドウを止める。
「突然すみませんね」
中年の男性警察官が、帽子のつばを持ちながら言った。
「いえ……。あの、何か……」
無断駐車の件か、パトロールに来ただけか、それとも。
「この車、君たちの?」
「違います。これはレンタカーでして」
「なるほど。ところで、大学生さんかな? 学生証とか、身分証とか持ってる?」
「大学生ですけど、免許証なら……」
あれ?
背筋に一筋の汗が流れた。あるはずの固い感触がない。ポケットから、財布がなくなっている。
「あ、あれ……。どこ置いたっけ……」
俺はドリンクホルダーの底や座席の下を探す。
ない、ない、ない——。
颯の車に置いた記憶はないし、最後にしまったのはいつだ。思い出せない。事故現場付近の階段に落としてしまったのか。
「すみません。財布ごと家に忘れてしまったみたいで」
苦し紛れに嘘をついた。警官が怪訝そうな顔をしていると、ちょうど勝矢が起きてくれた。
「どうした、伊吹?」
「あぁ、勝矢。今、警察の人から声をかけられて」
「警察……?」
彼は窓の外を睨む。
「すみません、これって何の聴取ですか? 強制ではないんですよね? 僕たち、たまたま休んでいただけですが。身分証まで提示する必要あります?」
「強制ではなく任意です。この近くで少しトラブルがあったんで。不審な車を見なかったか訊いて回っているんですよ。それに、未成年であったら注意しないといけないからね」
この近くのトラブルに不審な車というのは、十中八九あの事故のことだろう。予想通り、犯人たちは逃亡することを選んだようだ。
警官は少しだけ右に移動する。佐環たちも聴取を受けている様子が見えた。
「僕たち、全員成人しています。通っている大学も同じです」
勝矢は学生証を手渡す。警官はそれを確認すると、「ちょっと待っててもらっていい?」と相方に呼ばれパトカーへ戻って行った。
運転席にいる佐環と目が合った。くっきりとした二重に右目の涙ぼくろが特徴で、髪型はアゴ下辺りできっちり長さが揃えられたショートヘア。細長い指で、オッケーの形を作った。よかった、うまくやり過ごせているようだ。
気がかりなのは失くした財布だ。クレジットカードは持っていないが、結構な金額を用意していた。そして、身分証も入っている。事故現場付近で発見されたらどこかで盗まれたと主張するしかない。
「なんだ、ふたりとも早いな」
隣で寝ていた颯が大きく伸びをした。
「あ、颯。今警察官の人が来ていて……」
「は? 何で?」
俺は声を抑えてと、ジェスチャーする。まだ警官は戻ってない。窓を閉め、先ほど起きたことを説明した。




