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Rabbit-foot  作者: 広井新
5. Rabbit-foot
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7

 会社を辞めて以降、転職活動には苦労したけど、無事今の介護施設が正社員として採用してくれた。時間が不規則で体力仕事は体にくるものがある。それでも以前やっていた仕事よりはるかに達成感があった。

 駅前にある牛丼チェーン店へ入り、定食を頼んだ。夜勤明けはここで朝ごはんを取るのがルーティーンだ。できたての味噌汁をすする。体を芯から温めた。

 ポケットの中でスマートフォンが振動した。

 通知欄には灰島(はいじま)さんのSNSアカウントとメッセージが表示されていた。

 ——こっちも終わったよ! どこで待ち合わせする?

 ——芋北川でもいい?

 ——オッケー!

 返信を確認し、画面をテーブルの上に伏せた。

 新作ミュージカルの主演が決まったから観にきてほしい。

 十年間音沙汰なかった灰島さんから、突然メッセージが送られてきたのはつい一週間前のこと。

 もちろん喜ばしいことだった。ただ、宣伝するために知り合いに手当たり次第送っているんじゃないかと疑い、断ってしまおうかと思った。そんな俺の心を見透かしたのか、彼女は「ついでに話もしたい。とても大事なこと」ともったいぶったひと言を付け加え、それにまんまと吊られてしまった。

「伊吹くん! こっち、こっち」

 電車に乗るため駅へ入ると、女性の声で名前を呼ばれた。手を振りながら近づいてくる。

「覚えてる? 私のこと?」

 女性は肩にかかった金髪の髪を後ろに払う。革のブーツにスキニージーンズがよく似合っていた。

「えっと……。もしかして灰島さん?」

「そう! 本当に久しぶりだね」

「うん。それにしてもよく分かったね」

「まぁね」

 十年前、一回会ったきりなのに、彼女はすぐ俺のことを認識した。記憶力がいいのか、嗣乃か他の誰かと頻繁に会って話を聞いていたのか。それにしても、同い年とは思えないくらい若々しい雰囲気だった。きっと舞台女優として鍛えている成果がでているんだ。

「まずはミュージカルの主演の件、おめでとう。明日からだったよね。忙しいんじゃない? 大丈夫なの?」

 俺は送られてきたスクリーンショットの画像を確認した。すると彼女は大きな瞳をこちらに向け、サラッとした口調で言った。

「平気。あれ、嘘だから」

「……え?」

 理解が追いつかなかった。何で嘘を? じゃあ何で俺を呼び出したんだ?

「長くなるから、コーヒーでも飲んで話さない?」

 灰島さんはいたずらっぽく笑った。



「そろそろ教えてくれない? どうして嘘ついてまで呼び出したの?」

 俺の焦りなど気にも留めず、灰島さんは優雅に紅茶を飲んでいる。知らない間に弱みを握られていて、これから揺すられるのではないかとびくびくしてしまう。彼女が口にするのは、ミュージカル女優としての下積み時代や同業者の愚痴など。一体何が目的なのか。

「言っておくけど俺、金も体力もないし、搾りとれないと思うよ。あと、演技も下手だから詐欺とかも無理だと思う……」

 カシャンとソーサーを鳴らす。その言葉を待っていたかのように。

「うん、知ってる。ずっと見てきたもの」

「ん? 見てきたって?」

「これ、落としたでしょ?」

 灰島さんはテーブルの上に一枚のカードを置いた。

 運転免許証だ。

「あ……これって」

 手に取って観察する。生年月日に前の住所、若い頃の自分の写真……。失くしたと思って再発行までしたのに。一体どこで? 何で彼女が?

「PP市死亡ひき逃げが起こった現場近くに落ちてたの。厳密にいうと、砂浜に埋もれたって感じかな」

「なんだ、やっぱりあそこにあったのか……」

「ごめんね。すぐ渡せば良かったんだけど、私の中で疑いが晴れなくて」

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