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「いいや、持病が悪化してそのまま逝ってしまった。お前たちを生贄にしたのは一石を投じるためだ。SNSを使って好き勝手言っているやつらのせいで、被害者のはずが加害者のように追い込まれてしまっている人たちがいる。それに、佐環の父親は大企業の幹部。嗣乃はパパ活。このふたりはしばらく生活に困らないと踏んだ。伊吹と勝矢には情報をマスコミに売った金を分けるつもりだった」
「つもりだった?」
俺は思わず訊いた。
「海外へ逃げた後、お前たちの手が届かない場所に着いたらって意味だ」
きっと颯は、そこが安全地帯だと思っている。自分たちの過去だけでなく、SNSの脅威から逃れられる場所なのだと。
だけど、まだひき逃げ事件と叔母さんの関係性が見えてこない。
颯はわざとらしくため息をついた。
そして「あいつとの出会いは小学生だった頃まで遡る」と、全ての始まりを語りだした。
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P市は叔母の住む町だった。自然が豊かで食べ物も美味しい。周りの人たちもみんな優しくて、すごくいいところだった。長期休みはそこへ遊びに行くことが恒例だった。
P駅無差別殺傷事件。叔母はケガを負わずに済んだ。安心した。が、それも束の間。あの事件の被害者は、身体的な傷を負ったものだけとは限らない。
将来は野球選手になる。そう言うと、ほとんどのやつがバカにしてきた。だけど、俺は信じて疑わなかった。バットを握った瞬間、分かったんだ。自分の生きる道はこれだと。
「妹から聞いたよ。四番でキャプテンなんだって? すごいじゃない」
俺は揚げたてのコロッケを口一杯につめたまま礼を言った。
たまに、両親に代わって叔母さんが大会の送迎してくれていた。サプライズのようなものだ。母さんに内緒で好物のコロッケを買ってくれることが密かな楽しみでもあった。
母さんは彼女のことを「自慢の姉」とよく言っていた。父の反対を押し切り、大学へ進学。貧しい家庭環境の中、協力し合いながら乗り越えてきたという。それから叔母は晴れて看護師となった。
母が結婚してからもふたりの交流は続いた。ただ、叔母は良縁に恵まれず独身を貫いていた。だからなのか、ひとりっ子の俺を可愛がってくれた。彼女はもうひとりの家族だ。気前が良くて優しくて、尊敬できる人。送迎だけでなく、大会の応援に駆けつけてくれたし、何よりここを離れ強豪校へ行くべきだと背中を押してくれた。
着実に夢へ近づいていた気がした。全ては順調だった。あの男さえいなければ。
小学六年生の時だった。昼休みに友だちと校庭で遊んでいて、確かサッカーをしていた。その内のひとりが、ふざけてボールを人のいない方へ蹴ったんだ。そしたら、校舎の裏まで転がっていって。ジャンケンで負けた俺が取りに行くことになった。
そしたら「ボコン、ボコン」と、何かが壁にぶつかる音が聞こえてきた。
なんとなく気になって音の出所を辿った。すると、見えてきたのはフードを被ったひとりの小柄な人物。陰へ溶け込むように全身黒い服を着ていた。




