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主な登場人物
耳塚 伊吹…男性。勝矢と幼馴染。保守的な性格。
大鼻 勝矢…男性。伊吹と幼馴染。少し冷たい印象を持たれがち。
久目 颯…男性。壱歩と勝矢とは大学で再会した。野球をやっていた。
手柳 佐環…女性。嗣乃と仲が良い。努力家で真面目な性格。
古味山 嗣乃…女性。佐環と仲が良い。瞬間記憶能力を持っている。
——運転手って誰だったの? エモトは何をしたかったんだ? 生放送までしてさ。
——犯人はエモトでしょ。
——時効迎えてるんだから犯人が判明したって無駄。遺族は悔しいだろうね。
エモトの告発は数日経たないうちに違う話題へすり替えられた。ネズミが俺たちの個人情報を晒した時と比べて炎上の規模は小さく、事件発生から十年以上経過していることもあり、中には真実と虚構が入り混じっている投稿も散見された。
「P市死亡ひき逃げ事件」の全容は形を変え、人々の記憶からひっそりと消えようとしている。
「颯、ちゃんと来てくれてるよね」
佐環の運転する車は都心の高速道路を降りたところだった。
「うん。空港を指定したってことは、多分そのまま飛び立つ予定なんだろう」
助手席に座る勝矢が答えた。
彼と会う約束を取りつけたのは一か月前のこと。
ネズミの正体は颯。そう俺たちに告げたのは彼だった。
「車の中で仮眠を取っていた時、物音で少しの間だけ目が覚めたんだ。そしたら、颯がアクションカメラを操作していた。気づいてないフリをした。もしかしたら夢かもしれないと思ったから。だけど、告発アカウントで映像が流出した時、確信したんだ」
嗣乃でなくて良かったと喜ぶべきだろうか。颯のことを薄汚いネズミだと罵ったことを後悔するべきだろうか。
記憶の中にいる、屈託ない笑顔を向ける彼。青春を共に過ごした彼はもういない。
なぜ俺たちを裏切ったのか。その理由をどうしても知りたい。でないと、本当の終わりが訪れない。この事件と、颯との関係に。
嗣乃にも一緒に来てほしいとメッセージを送ったが「興味ない」ときっぱりと断られた。ただ、他のふたりとは最後まで意見が一致した。
問題は颯と連絡がつかなかったことだ。メッセージを送っても電話をしても空振りで、唯一、佐環とだけは辛うじて繋がっていた。
「メッセージは読んでくれてるみたいだけど、返信は未だに……」
「とにかく、話をしたいという熱意は送り続けよう。これだけが、か細い希望の糸だ」
勝矢の言葉に、俺たちは祈りの気持ちを重ねた。
そしてようやく実を結んだ。
——信じていいんだな?
初めから良心を保っていた佐環と通じるところがあったのだろう。颯は会うことを約束してくれた。ただし、俺と勝矢を除いて。
——来週の月曜。R空港のスカイデッキに。ひとりで来ないと話はしない。時間はまた知らせる。
「ふたりとも、行くよね?」
「もちろん。佐環をひとりにしてはおけない!」
「僕と伊吹は離れた場所で待機してるよ。颯が現れたら僕たちも出て行くから」
漆黒の中を赤いライトが進んでいく。
空港に到着するまで、あと少しだ。
手に握られたスマートフォンは沈黙を貫いている。
「まだかな……。様子を見に行った方がいい?」
俺は平然とした様子で待機している勝矢に訊いた。佐環が先に待ち合わせの場所へ向かい、颯が現れたら俺たちに知らせる算段だ。
「彼女を信じてここで待とう。大丈夫。そこまで警戒してこないだろう。この雑踏の中、僕たちを探し出すなんて至難の業だし、労力の無駄だ」
彼の言う通り、平日にも関わらず人の行き交いは多い。これから海外へ向かう人、帰国してきた人。スーツケースを運ぶ手は軽やかだ。
颯は本当に海外へ飛ぶつもりなのか。目的を果たし、意気揚々とした気持ちで。
彼に会ったら、腹の底に溜まった鬱憤をぶつけたい。もしかしたら手が出てしまうかもしれない。いや、俺はもうそこまで若くないし、そんな柄じゃない。
「勝矢はさ、早い段階で颯が裏切ったこと知っていたの?」
「うん」




