↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rabbit-foot  作者: 広井新
4. No answer is also an answer. ——手柳佐環——
56/64

14

「それは事件があった日も同じでしたか?」

「はい」

「では次に、事件を起こす前の行動について詳細に教えてもらえますか?」

「はい。Aは定職に就いておらず、暇さえあれば酒とギャンブルに入り浸る生活をしていました。事件当日、彼は大負けし、愚痴に付き合うため居酒屋へ向かうことになりました。車はAのもので、結構遅い時間だったと覚えています。まず適当に空いている居酒屋へ入り、軽く飲んだ後、Aの知り合いが経営している店へ行く予定でした」

「ちょっと待ってください。一件目の時点で酒を飲んでいたのは誰ですか?」

「私以外は全員です。基本、飲むのはその三人でした」

「A以外で運転免許を持っているのは?」

「私だけです」

「では、帰りの運転はあなたが代わったのですか?」

「いえ。Aは断固として運転席を譲りませんでした」

「ということは、あなたは飲酒運転を黙認したということになりますよね?」

「まぁ……そうなりますね。はい」

「ということは、これまでも飲酒運転を繰り返していたということですか?」

「はい。少なくともAと飲んだ時は」

「話を戻しますと、Aはどのくらいの量を飲んだのでしょうか?」

「ええっと、たくさん飲んでいたことは確かです。ビールに日本酒、ワイン。メニューにあるもの全部飲む人でした」

「そうなると、立っていられない状態になるのでは?」

「いや、かなり酒に強かったので立っていられたし、意思疎通もしっかりできていました。まぁ、言葉遣いがひどくなり、暴力性も増していましたが」

「話の流れからすると、店から自宅までAの運転で帰ったということですね? 距離は近かったのですか?」

「いいえ。ちょっと遠いので、一番近くにあるA宅に泊まるのが恒例でした」

「では、帰宅する道中で被害者をはねてしまったということですか?」

「いいえ。一件目に寄った店で、隣にいた客とちょっとしたトラブルを起こしてしまいました。取っ組み合いになる寸前でなんとか宥めたのですが、私たちは店を追い出されました。機嫌を直そうと、Bは二件目へ行くことを急かしました。だけど、相当イライラしていたのか、次第に彼の様子がおかしくなり出したのです。ドリフトを決めてスカッとしたい、だったかな。そこはうろ覚えですが、とにかく、異様にテンションが高くなっていました」

「あなただけ抜けることはできなかったのですか?」

「もちろん、こっそり帰ろうと試みました。が、ダメでした。Aは私の腕を掴んで無理矢理車に乗せました。それに、Cを置き去りにするわけにはいかないとも思っていました。今となっては、放って置けばよかったと後悔しています」

「確か、被害者がはねられた道路は二車線の道路でした。幅が広いと言えず、歩行用のスペースもありません。そんな場所でドリフトをしたのですか?」

「いいえ。実際は猛スピードで走ったり、蛇行運転を繰り返していただけでした。ただ、そのせいで私はひどく車酔いをしました。だから、この辺の記憶はかなり曖昧なものです。確かに言えることは、体がグワングワン左右に振られ、金切り声とも取れる笑い声が波のように迫ってきたことです。いい加減にしてくれ。叫ぼうとした直前、もの凄い衝撃が全身にのしかかってきました。車内が一瞬で静まり返り、フロントガラスのひび割れを見た時、全身の汗が引いていきました」

「被害者をはねてしまったんですね?」

「はい。私以外、車を降り確認しに行きました。お前はここにいろ、Aに言われるがままでした。目撃者がいたらどうしよう。対向車が来たらどうしよう。待たされている間、生きた心地がしませんでした。そして戻ってきたのは顔面蒼白になった彼らでした。人、轢いちゃったみたい。BかCか、蚊の鳴くような声で呟いたのです。逃げるぞ。警察には言うな。このことは黙ってろ。黙ってれば絶対バレない。Aの発した短い言葉は、腹の奥へずしんと響きました」

「つまり、Aたちは飲酒をしており、正常な判断ができなかった。そのうえ、危険運転を繰り返すことに夢中で被害者の存在に気づけなかった。これが事件の真相ですね?」

「恐らく……」

「ひき逃げした理由としては、酒を飲んでいたから以外にありましたか?」

「いいえ、ありません。私の場合、Aに逆らえなかったのが大きいですかね」

「しかし、防犯カメラや車のナンバーを読み取るNシステムなどに引っかからず、どう逃げたのでしょうか?」

「Aは土地勘がありましたから。徹底的に裏道を通り、適当な場所で私たちを降ろしました。車は海に落として処分すると言い残して、以降は音信不通です。Cともとっくに別れました」

「被害者が巴海沙だと知ったのはいつ頃ですか?」

「随分後のことでした。ひき逃げがニュースになって、それからSNSで話題になった頃です」

「逃走したことによって、無実の人が犠牲になったことについてはどう思いましたか?」

「申し訳ない気持ちでいっぱいです」

「はい。えー、時間が押しているということでしたのでインタビューはここまでとします」

「あ、あの。すみません。最後にひと言いいですか。私たちは法の裁きから逃げてしまいました。しかし、背負った十字架は一生忘れることのできないものです。そして、飲酒運転をしていた時、自分たちだけは大丈夫だって高を括っていました。何度も無事故で運転できていたんだからって。だけど、それは運が良かったに過ぎませんでした。私からお伝えしたいことは以上です。被害者の方、この事件に巻き込まれた方々、申し訳ありませんでした」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。