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「それは事件があった日も同じでしたか?」
「はい」
「では次に、事件を起こす前の行動について詳細に教えてもらえますか?」
「はい。Aは定職に就いておらず、暇さえあれば酒とギャンブルに入り浸る生活をしていました。事件当日、彼は大負けし、愚痴に付き合うため居酒屋へ向かうことになりました。車はAのもので、結構遅い時間だったと覚えています。まず適当に空いている居酒屋へ入り、軽く飲んだ後、Aの知り合いが経営している店へ行く予定でした」
「ちょっと待ってください。一件目の時点で酒を飲んでいたのは誰ですか?」
「私以外は全員です。基本、飲むのはその三人でした」
「A以外で運転免許を持っているのは?」
「私だけです」
「では、帰りの運転はあなたが代わったのですか?」
「いえ。Aは断固として運転席を譲りませんでした」
「ということは、あなたは飲酒運転を黙認したということになりますよね?」
「まぁ……そうなりますね。はい」
「ということは、これまでも飲酒運転を繰り返していたということですか?」
「はい。少なくともAと飲んだ時は」
「話を戻しますと、Aはどのくらいの量を飲んだのでしょうか?」
「ええっと、たくさん飲んでいたことは確かです。ビールに日本酒、ワイン。メニューにあるもの全部飲む人でした」
「そうなると、立っていられない状態になるのでは?」
「いや、かなり酒に強かったので立っていられたし、意思疎通もしっかりできていました。まぁ、言葉遣いがひどくなり、暴力性も増していましたが」
「話の流れからすると、店から自宅までAの運転で帰ったということですね? 距離は近かったのですか?」
「いいえ。ちょっと遠いので、一番近くにあるA宅に泊まるのが恒例でした」
「では、帰宅する道中で被害者をはねてしまったということですか?」
「いいえ。一件目に寄った店で、隣にいた客とちょっとしたトラブルを起こしてしまいました。取っ組み合いになる寸前でなんとか宥めたのですが、私たちは店を追い出されました。機嫌を直そうと、Bは二件目へ行くことを急かしました。だけど、相当イライラしていたのか、次第に彼の様子がおかしくなり出したのです。ドリフトを決めてスカッとしたい、だったかな。そこはうろ覚えですが、とにかく、異様にテンションが高くなっていました」
「あなただけ抜けることはできなかったのですか?」
「もちろん、こっそり帰ろうと試みました。が、ダメでした。Aは私の腕を掴んで無理矢理車に乗せました。それに、Cを置き去りにするわけにはいかないとも思っていました。今となっては、放って置けばよかったと後悔しています」
「確か、被害者がはねられた道路は二車線の道路でした。幅が広いと言えず、歩行用のスペースもありません。そんな場所でドリフトをしたのですか?」
「いいえ。実際は猛スピードで走ったり、蛇行運転を繰り返していただけでした。ただ、そのせいで私はひどく車酔いをしました。だから、この辺の記憶はかなり曖昧なものです。確かに言えることは、体がグワングワン左右に振られ、金切り声とも取れる笑い声が波のように迫ってきたことです。いい加減にしてくれ。叫ぼうとした直前、もの凄い衝撃が全身にのしかかってきました。車内が一瞬で静まり返り、フロントガラスのひび割れを見た時、全身の汗が引いていきました」
「被害者をはねてしまったんですね?」
「はい。私以外、車を降り確認しに行きました。お前はここにいろ、Aに言われるがままでした。目撃者がいたらどうしよう。対向車が来たらどうしよう。待たされている間、生きた心地がしませんでした。そして戻ってきたのは顔面蒼白になった彼らでした。人、轢いちゃったみたい。BかCか、蚊の鳴くような声で呟いたのです。逃げるぞ。警察には言うな。このことは黙ってろ。黙ってれば絶対バレない。Aの発した短い言葉は、腹の奥へずしんと響きました」
「つまり、Aたちは飲酒をしており、正常な判断ができなかった。そのうえ、危険運転を繰り返すことに夢中で被害者の存在に気づけなかった。これが事件の真相ですね?」
「恐らく……」
「ひき逃げした理由としては、酒を飲んでいたから以外にありましたか?」
「いいえ、ありません。私の場合、Aに逆らえなかったのが大きいですかね」
「しかし、防犯カメラや車のナンバーを読み取るNシステムなどに引っかからず、どう逃げたのでしょうか?」
「Aは土地勘がありましたから。徹底的に裏道を通り、適当な場所で私たちを降ろしました。車は海に落として処分すると言い残して、以降は音信不通です。Cともとっくに別れました」
「被害者が巴海沙だと知ったのはいつ頃ですか?」
「随分後のことでした。ひき逃げがニュースになって、それからSNSで話題になった頃です」
「逃走したことによって、無実の人が犠牲になったことについてはどう思いましたか?」
「申し訳ない気持ちでいっぱいです」
「はい。えー、時間が押しているということでしたのでインタビューはここまでとします」
「あ、あの。すみません。最後にひと言いいですか。私たちは法の裁きから逃げてしまいました。しかし、背負った十字架は一生忘れることのできないものです。そして、飲酒運転をしていた時、自分たちだけは大丈夫だって高を括っていました。何度も無事故で運転できていたんだからって。だけど、それは運が良かったに過ぎませんでした。私からお伝えしたいことは以上です。被害者の方、この事件に巻き込まれた方々、申し訳ありませんでした」




