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「仕事をしながらプロになろうと……」
「はい。プロになれば一攫千金も夢ではない。地道に働いて返すよりよっぽどいいと、彼なりに考えた結果だったのかもしれません。そこが不明瞭なままなのです。同時に私は、いじめをしてきた人たちに復讐を果たすために鍛えていたのではないかと、疑ってしまいました。傍で観ていたからこそ分かるのです。何かに取りつかれたように、体つきだけでなく顔つきも険しくなっていくのを」
その男にくすぶる凶悪さを目の当たりにしてしまった、ということか。
話を聞けば聞くほど巴海沙という人物の輪郭が浮かび上がっては消えていく。これほどまでに、彼はネットやニュースの中で記号化されてきたのだと気づいた。
「以上が、私の知る全てです。お役に立てましたでしょうか?」
「もちろんです。貴重なお時間をありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
全て語り終えた光永さんは心なしか晴れやかな表情をしていた。
正座を崩すと、足先へ一気に血が流れ出した。
「ねぇ、帰る前にお墓参りしない?」
伊吹くんが私たちの方へ顔を向けて訊いた。
「うん。行こう」
私の返事に勝矢くんも頷いた。
光永さんは快く了承し、墓地へ案内してくれた。
墓石や卒塔婆がびっしりと並べられている中、他とは形状の違う墓の前で立ち止まる。正立方体のそれは、個人を祀るにしては大きく豪勢だった。中央の黒石に刻まれた文字は「合葬墓」。
私は手を合わせるために両膝をつく。すると、供えられた榊や菊の瑞々しさが目に入った。
「このお花は光永さんが?」
「いいえ、私ではありません。が、たまに墓参りへ来られる方はいらっしゃいます。その方が誰かまでは分かりかねます」
「そうですよね。ありがとうございます」
私は改めて両手を合わせた。ただひとりの人物へ、弔いの意を込めて。
白い光が車体の上を素早く滑っていく。帰り道も渋滞に巻き込まれることなく順調に進んでいた。運転している私に気を遣っているのか、車に乗ってからふたりは言葉を発さない。だけど、嫌な沈黙ではなかった。私自身、心の靄が晴れていったのを実感してる。ただ、ここに嗣乃もいたらよかったと、それだけが心残りだった。
伊吹くんは手を合わせた後、数秒間、墓石を見つめた。勝矢くんは形式的に済ませたように見えたことが気になっていた。
P県の県境を超えたあたりで、私はお礼を言う流れで彼らに訊く。
「みんな、今日はありがとうね。遅くまで付き合わせてごめん。率直に、どう思った?」
「こちらこそ。真相が知れてよかったよ。もし君が誘ってくれなかったら、巴氏のことを恨みながら生きていくことになっていたかもしれないから」
「伊吹くんは?」
「俺は……通報しなかったことに関して言うと、間違っていないと思ってる。ただ、被害者が元少年という偏見だけで、黙認を正当化したい欲求が加速したのは確かだ。光永さんの話を聴いて、安易に決めつける癖を改めようと思った」
「あの状況では無理もないよ。僕も後押ししてしまった」
「勝矢くんって、もしかしてだけど、ネズミの正体が誰なのか気づいてる?」
「うん。もっと言ったら、ひき逃げが発生した夜の時点で、怪しかった人はいる。けど、僕は彼を止められなかった」
「え、彼って……どっちの」




