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「P駅で事件を起こした時、彼はこう言いました。鬱憤を晴らしたかったからやった。出所してきたばかりの第一印象は、自分以外の人間に強い恨みを持っている、というものでした。面談をしようにも、ちゃんと来てくれたのは数回だけで、こちらから連絡を取っても全て無視。まぁ、よくあることなのですがね」
苦笑いを浮かべた。こめかみに刻まれた深い皺が、これまでの苦労を物語っている。
誰かの言うことに素直に従う子なら無関係の人たちを傷つけることはしない。頭では分かっていても、彼らと向き合い、理解しようとすることは私にはできないことだと思った。保護司たちは、一体どれくらいの時間と労力を費やしてきたことだろう。
「話の途中ですみません。巴氏はP市の出身だったのですか?」
勝矢くんが訊いた。
「いいえ」
「ではなぜP駅を狙ったのでしょう?」
「人が多い場所を狙った、と言っていました」
「なるほど」
「心を開いてもらうのにも苦労しましたが、最も苦労したのは地域住民たちへの理解の呼びかけでした」
「ということは、近隣住民は巴海沙の正体を知っていたのですか?」
「もちろんです。特にこの辺りは小さな町ですから。木々の葉が擦れる微かな音すら聞き逃しません」
光永さんの言葉が、P市の空気を表していた。地元の名士の下へ、地元の住民ではない青年がやってきた。それは警戒するには十分な理由だった。
人口減少に歯止めがかからない町と、前科を抱えた青年を受け入れることのジレンマ。この空気を巴氏はどのように感じたのか。
「彼はこの町で働いていたのでしょうか?」
気になることでもあるのか、勝矢くんは間髪入れず質問をした。
「はい、知り合いの町工場に」
「勤務態度などはどうだったのでしょう?」
「とても真面目でしたよ。渋々といった態度から次第に熱が入ったのか、休まず出勤していたと聞きました。これには地域住民も感心するほどで、私も冥利に尽きる思いでした」
「では、轢かれて亡くなったことを知った時は……」
「衝撃でしたよ。ようやく希望が見えてきたというのに。ただ、中には複雑な感情を持つ方もいらっしゃったでしょう。これで何も起こらずに済む、と」
「……では、先ほど熱心に仕事へ打ち込んでいたとおっしゃっていましたが、何が彼を奮い立たせたのでしょうか?」
「一番考えられるのは、お金を必要としていたからではないでしょうか。彼のご両親は月々の賠償金の支払いをしていませんでした。それどころか、少年院から出所した時も引き取りを拒否しています。最初、私はご両親なりの躾や愛情表現だと思ったのです。しかし、実際は違っていました。巴くんの亡骸は無縁仏として私が引き取ることになったのですから」
いじめを受け、誰かの人生を壊し、最期は家族の手に引き取られることはなかった。
彼の身に降りかかった一連の出来事を、私たちはどう受け止めるべきだろう。犯罪は犯罪であって、越えてはならない一線があって……。彼をただの「加害者」と呼んでいいのか分からなかった。
「あの、私からひとつ。世間から言われているような人間ではないと言い切ることができない、とおっしゃった理由を知りたいのですが……」
沈黙が張り詰める中、誰よりも先に口を開いた。光永さんのその言葉の真意が気になっていた。
「巴くんが夜、道路を歩いていたことはご存じですよね? どうしてそんな時間にとも思ったことでしょう。実はプロボクサーを目指していたのです。そのため遅い時間帯まで走り込みをするのが日課となっていました」




