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Rabbit-foot  作者: 広井新
4. No answer is also an answer. ——手柳佐環——
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10

 私は振り返り車の中を見る。彼が車内にいることを確認し、勝矢くんに訊いた。

「なんで伊吹くんって黙認に賛同していたんだろう?」

「多分、小さい頃のトラウマが原因じゃないかな。近所の公園によく来る女の子がいて、その子はずっとひとりで遊んでいたものだから、見かねた伊吹が声をかけたんだ。すぐ仲良くなって、僕も含めて遊ぶようになったんだけど、ある日その子の親が怒鳴り込んできたんだ。ウチの娘に手を出したのは前か! って」

「どういうこと?」

「さぁね。僕はその場に立ち会っていなかったから詳しいことは分からない。とは言え、そこから保守的な性格になった感じはする」

「そんなことが……」

 そうか。各々、黙認するという決断に至るまで、事件と関わりたくない経験をしてきたんだ。

「気分はどう? 良くなった?」

 車に戻り、伊吹くんに声をかけた。ぐったりしたままだが、顔色はさっきより良くなっている気がする。

「だいぶマシになったよ。酔い止めが効いたんだと思う。ありがとう」

「それは良かった」

 勝矢くんは腕時計を見て「そろそろ約束した時間になる。伊吹が大丈夫なら行こう」と乗り込んだ。

 保護司から送られてきた住所は、由緒ある寺院だった。彼らの活動はボランティアで行われているというのだから驚いた。よほど資金と心に余裕がある方たちにしかできない。車を隣接している駐車場に止め、精巧で荘厳な装飾が施された門をくぐる。見えない板で遮られていたかのように、古い木の香りが押し寄せてきた。

「いらっしゃらないみたいだね。電話してみる」

 勝矢くんは短く会話を済ませた。それから数分後、下駄を引きずる音と共に彼は姿を現した。袈裟を着た坊主頭の中年男性だった。

「こんにちは。すみません、お待たせしてしまって。大鼻様でよろしかったですよね?」

「はい、大鼻と申します。本日はお忙しい中、ありがとうございます。こちらは私の友人であり、例の事件の目撃者である、耳塚と手柳です」

「よろしくお願いします」

 私たちは会釈をした。彼が事前に事情を伝えてくれたおかげで話がスムーズに進む。

「こちらこそ。私、巴海沙の保護司をしていた光永(みつなが)と申します。さぁ、詳しい話は中へ入ってからにしましょう」と、寺院の横に建てられた一軒家の客間へ案内された。

「どうぞ、座ってください」

「ありがとうございます。失礼します」

「そんな緊張なさらなくても大丈夫ですよ」

 過剰なくらいかしこまった姿勢に、光永さんは優しい口調と笑顔を向けた。

「それで、皆さんは巴くんのことについて知りたい、ということでしたよね」

 その名前が出た瞬間、私は背筋を伸ばした。

「はい、そうです」

「巴くんは、世間から言われているような人間ではない。そう言い切れなければいけない立場にあるにも関わらず、断言できずにいます。何せ、彼が心を開いてくれる前に、あの事故に遭ってしまったのですから」

 光永さんは俯き加減に、ポツポツと言葉をこぼす。まるで追い詰められた犯人が罪を白状するかのように。

「彼が産まれた家庭環境はごく一般的で、虐待されていた事実はないと本人が証言しています。私が推測するに、彼を精神的に追い詰めた主な原因は、イジメによるものだったのではないかと。というのも、見た目にかなりコンプレックスがあったようでした。父親は日本人、母親はヨーロッパ出身の外国人のハーフ。色白で堀の深い顔立ちが特徴的でした」

 だとしたら、イジメによって不登校だったという可能性もある。顔写真が出回っていないのも納得だ。彼は続ける。

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