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Rabbit-foot  作者: 広井新
4. No answer is also an answer. ——手柳佐環——
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8

 ひとり分の狭いスペースしかなかったためバッグを膝の上に乗せる。

 店内は騒がしいくらいの声量だった。ここなら会話を聞かれる心配はない。なのに、肝心の話題に切り込めない。すると、先に彼の方から口を開いた。

「しばらくホテルに泊まって生活していたんだ。君は? 大丈夫だった?」

「うん、なんとか。私は実家に戻ってた」

「そうなんだ。わざわざここまで来てくれたんだね。それぐらい重要な話? 例えば、ネズミの正体が分かったとか?」

「ネズミ?」

「裏切り者のこと。伊吹がそう呼んでいたから」

「そうなんだ。だけどごめん、正体はまだ分かってないの。それから、今日会ったのは協力してほしいことがあるからなんだ」

 私は父からの言葉と、事件の真相を明らかにしたい気持ちを打ち明けた。

「どうして僕に? ネズミだとは疑わなかった?」

「うん。私とあなたは同じ立場にいると思ってる」

 明確な根拠はない。ただ、彼の過去を知ってから、このようなリスクを取る行動をするとは考えにくかった。

「仮に真相が明らかになったところで、何か変わることってある? もっと言うと、何のために調査するのかっていうところを訊きたい」

 勝矢くんの問いかけに言葉が詰まる。変わるところがあるとしたら、それは私の気持ちの部分だ。全貌を知ることで未練と後悔の連鎖を断ち切れる。希望的観測でも、願望でもない。私なりの決着のつけ方だ。

「一番の理由は、知りたいから。それだけ」

 その返答に「なるほど」と斜め上を見る。そして数秒間が空いてから「分かった。協力するよ」と言ってくれた。

「本当? よかった」

「その代わり伊吹も呼んでいい?」

「うん。ネズミじゃないんだよね?」

「違うよ。絶対に」

 その日から早速行動に移した。暗い自室に籠っていた頃はこんな気持ちになることはなかった。多分、私ひとりだったら、こんな意欲的な気持ちで満たされることはなかっただろう。間違っていたらその時みんなで考えればいい。これからは、この十年間、できなかったことを。

「お茶をどうぞ。熱いから気をつけてね」

「ありがとうございます。わぁ、すごい。いい香り」

 伊吹くんはティーカップを持ち上げ、鼻の近くへ運ぶ。

 庭で採れたハーブを使った紅茶だ。馴れるまでは薄荷(はっか)の爽快感がどうにも苦手で、けれど父は澄ました顔で飲み干すから、これを飲めるようになった時は一段階大人になった気がして嬉しかった。

「……うん。なんか、高級感のある味ですね!」

 伊吹くんがどうにか笑顔を作っていたことは私から見ても分かった。勝矢くんはこんな時でも表情を変えなくて驚いた。

「そう言ってもらって何よりよ。じゃあ、私は庭にいるから。ゆっくりしていってね」 母は柔らかく微笑み、ドアを静かに閉めた。それを確認してから、私は再度「それで」と再びふたりに向き合う。

「思ったんだけど、颯って実は被害者なんじゃない? だから恨みを持っていて、この際見捨ててしまおうとしたとか」

「P駅の事件の? それは考えづらい。巴氏と僕たちは同年代だ。事件は平日の昼間に起きたんだから、颯は偶然その日の学校を休み、しかもちょうどその時刻その場所にいたことになる」

「それもそっか……」

 勝矢くんの反論に自分の浅はかさが恥ずかしくなった。冷めたハーブティーに口をつけ、もう一度考えてみる。

「まぁ、それぐらいインパクトがないと他人のことなんて覚えていられないよな。もしくは、事故が起こる前から、巴氏と会わなければいけない事情があったとか? ありえないか」

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