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Rabbit-foot  作者: 広井新
4. No answer is also an answer. ——手柳佐環——
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5

「話って何? そんな深刻なことなの?」

 ソファーには父と母が、その向かいに私が座った。冷房の風は部屋全体に行き渡っているにも関わらず、額から汗が止まらなかった。

「まず結論から言う。佐環は……私の実の子じゃない」

「……え?」

 彼は足元に立てかけてあった茶封筒から書類を取り出し、テーブルの上へ置いた。

「これが証拠だ」

「これって……DNA検査?」

「伝えるべきかどうか最後まで悩んだ。そして、言うべきだと判断した」

 父の言葉がえらく平坦に聞こえた。

「お父さんの子どもじゃないって……もしかして、お母さん不倫したの?」

「……」

 母は目に涙を溜めたまま動かない。

「ねぇ! 答えてよ! 黙ってるってことは答えてるのと同じだよ!」

「母さんを責めるのは止めなさい」

「何で不倫なんかしたの? ずっとずっと、お父さんの子どもだと思ってた。知ってたの? 知ってて黙ってたの?」

「あぁ。佐環が産まれてくる前からね」

 母の代わりに父が答えた。

「何それ……じゃあ私は誰の子なの? ふざけないでよ! まさか、試合を観に来ていたあのおじさんなの⁉」

 力の限り泣き叫んだ。父は宥めようとしていたけれど、その声は届かなかった。母は「ごめんなさい」とつぶやいた。

 一番傷ついたのは、父が不倫を黙認していたという事実だった。彼は真面目で、清く正しい人だと信じていた。だから裏切られたと感じてしまった。

 階段を駆け上がり自室に籠る。涙で滲んだ視界の中で、嗣乃の名前を探し、電話をかけた。

「そっか……それはショックだったね」

「ねぇ、嗣乃。あなただけはどこにも行かないで。何があっても傍にいて」

「当たり前じゃん」

 インターハイでありえないミスを連発した私はバレー部内で完全に孤立した。

 あれだけ人に注意しておいて。

 彼女たちに後ろ指を指されている上、不倫の子どもだと知られたら、クラスメイトたちからも距離を置かれてしまうかもしれない。それが怖くて、私には嗣乃しかいないと思って、彼女に依存していった。

 約束を守ったのも、嗣乃が離れてしまうのが嫌だったから。

 だけど結局、バラバラになってしまった。迷いに迷って辿り着いた場所に、守りたかったものは何ひとつなかった。


 ▽▲

 

 忍び足で家を出る。母の世話になりたくなくて我慢していたが、空腹が限界に達した。徒歩圏内にコンビニはない。仕方なく、ガレージのかび臭い空気に埋もれた自転車を押し出す。すると、タイミングを見計らったように黒い高級セダンが私の前に現れた。

「佐環、どこ行くんだ?」

 窓を開け、父が顔を出す。

「お父さん……。コンビニに、ちょっと」

「そうか。なら、一緒に行かないか? 自転車でも遠いだろ」

「うん。そうする」

 きっと「母さんを赦(ゆる)してあげてほしい」と言うに違いない。とっくに赦している。優しさからでなく、考えたくなかったからだ。それでも、今は父と話したい気分だった。まだ本音を聞けていない。私のせいで立場を追われることになってしまった。突き放される覚悟はできている。

「体調はどうだ?」

「良くも悪くもないよ。お父さんこそ大変なんじゃない? 巻き込んでしまってごめんなさい」

「どうってことない。今までだって乗り超えてきた壁だ」

「ならよかった」

「これからどうするつもりだ?」

「転職しようと思ってる。復職は諦める予定」

「佐環ならどこでも活躍できるさ。私の自慢の娘なんだから」

「うん……」

 コンビニの看板が左前方に迫ってきた。しかし、車はウィンカーを出さないまま交差点を進む。

「あのな、お母さんが不倫をしたのは、私に原因があるんだ」

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