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「話って何? そんな深刻なことなの?」
ソファーには父と母が、その向かいに私が座った。冷房の風は部屋全体に行き渡っているにも関わらず、額から汗が止まらなかった。
「まず結論から言う。佐環は……私の実の子じゃない」
「……え?」
彼は足元に立てかけてあった茶封筒から書類を取り出し、テーブルの上へ置いた。
「これが証拠だ」
「これって……DNA検査?」
「伝えるべきかどうか最後まで悩んだ。そして、言うべきだと判断した」
父の言葉がえらく平坦に聞こえた。
「お父さんの子どもじゃないって……もしかして、お母さん不倫したの?」
「……」
母は目に涙を溜めたまま動かない。
「ねぇ! 答えてよ! 黙ってるってことは答えてるのと同じだよ!」
「母さんを責めるのは止めなさい」
「何で不倫なんかしたの? ずっとずっと、お父さんの子どもだと思ってた。知ってたの? 知ってて黙ってたの?」
「あぁ。佐環が産まれてくる前からね」
母の代わりに父が答えた。
「何それ……じゃあ私は誰の子なの? ふざけないでよ! まさか、試合を観に来ていたあのおじさんなの⁉」
力の限り泣き叫んだ。父は宥めようとしていたけれど、その声は届かなかった。母は「ごめんなさい」とつぶやいた。
一番傷ついたのは、父が不倫を黙認していたという事実だった。彼は真面目で、清く正しい人だと信じていた。だから裏切られたと感じてしまった。
階段を駆け上がり自室に籠る。涙で滲んだ視界の中で、嗣乃の名前を探し、電話をかけた。
「そっか……それはショックだったね」
「ねぇ、嗣乃。あなただけはどこにも行かないで。何があっても傍にいて」
「当たり前じゃん」
インターハイでありえないミスを連発した私はバレー部内で完全に孤立した。
あれだけ人に注意しておいて。
彼女たちに後ろ指を指されている上、不倫の子どもだと知られたら、クラスメイトたちからも距離を置かれてしまうかもしれない。それが怖くて、私には嗣乃しかいないと思って、彼女に依存していった。
約束を守ったのも、嗣乃が離れてしまうのが嫌だったから。
だけど結局、バラバラになってしまった。迷いに迷って辿り着いた場所に、守りたかったものは何ひとつなかった。
▽▲
忍び足で家を出る。母の世話になりたくなくて我慢していたが、空腹が限界に達した。徒歩圏内にコンビニはない。仕方なく、ガレージのかび臭い空気に埋もれた自転車を押し出す。すると、タイミングを見計らったように黒い高級セダンが私の前に現れた。
「佐環、どこ行くんだ?」
窓を開け、父が顔を出す。
「お父さん……。コンビニに、ちょっと」
「そうか。なら、一緒に行かないか? 自転車でも遠いだろ」
「うん。そうする」
きっと「母さんを赦してあげてほしい」と言うに違いない。とっくに赦している。優しさからでなく、考えたくなかったからだ。それでも、今は父と話したい気分だった。まだ本音を聞けていない。私のせいで立場を追われることになってしまった。突き放される覚悟はできている。
「体調はどうだ?」
「良くも悪くもないよ。お父さんこそ大変なんじゃない? 巻き込んでしまってごめんなさい」
「どうってことない。今までだって乗り超えてきた壁だ」
「ならよかった」
「これからどうするつもりだ?」
「転職しようと思ってる。復職は諦める予定」
「佐環ならどこでも活躍できるさ。私の自慢の娘なんだから」
「うん……」
コンビニの看板が左前方に迫ってきた。しかし、車はウィンカーを出さないまま交差点を進む。
「あのな、お母さんが不倫をしたのは、私に原因があるんだ」




