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横から見る父の表情は呆れていた。落胆はしなかった。ふたりの馴れ初めを語る時、満更でもない気持ちがあることは良く知っている。
将来の目標は父のような立派な人になること。中学では率先してクラス委員を引き受け、高校は地元でも有数の進学校に進んだ。部活と勉強の両立はかなり大変だったが、充実した毎日を過ごしていた。
西日に目を凝らし過ぎ行く景色を眺める。仕事で多忙な父とゆっくり会話する機会は少ない。土日は上司とゴルフや会食に行き、平日は夜遅くまで働く仕事熱心な人だ。そんな彼に「たまたま早く終われたから迎えに行く」と連絡をもらった時はいてもたってもいられなかった。優しい声色と心地の良い運転が、バレーボールの練習終わりで疲れ果てた身に染みる。
バレーを始めたのは中学からと遅めのスタートだった。仲の良い友だちから誘われ入部するも、やることはボール拾いなどの雑用が中心。三年生が引退するまで試合に出させてもらったことがなかった。ボールを操り、流れるような連携を繰り出す相手チーム。それに圧倒される仲間をベンチから喉を痛めて応援する日々だった。やっとコートに立てた日には、全体の士気が下がりきっていて、ボールはことごとく自陣に落ちた。
悔しかった。あれだけ練習したのに成果を出せなかったこと。それから、負けて当たり前といった意識が周りにあったことも含め。
この試合以降、私は死に物狂いでバレーに打ち込んだ。もうベンチで叫ぶ役割は終わったのだ。寝ても覚めても、頭の中ではずっと、ライバル高校のデータと攻略方法を考えていた。
当然、仲間との衝突が増えていった。今のは拾えるボールだった。ブロック飛ぶのをサボっていたのではないか。自分は間違ったことを言っていないはずだ。なのに、部内に味方してくれる人はほとんどいなかった。
耐えがたいほど辛かったのは、誘ってくれた友だちと意見が割れた時。目を合わすことなく交わす会話は必要最低限に留まった。学校へ行くのが憂鬱で、まともな睡眠をとれなくなるまで塞ぎ込んでしまった。
困り果てた私は父に悩みを打ち明けた。答えを希求した。彼ならきっと私を導いてくれる。
「正しいと思っているなら貫けばいい。最も避けないといけないのは中途半端になることだ」
同情や励ましの言葉はなく、多くを語らなかった。だけど、それで十分だった。
相手選手の打ったスパイクがレシーブを構えた両腕に吸い込まれる。芯を捕らえた。余計な力はいらない。きれいな放物線を描いてセッターの元へ返る。そして、白線の上に打ち込まれたスパイク。
私と友だちはお互いに目を合わせた。それはパズルのピースがパチッとハマるかのように。
ひたすら磨いたレシーブ練習が実を結んだ。それだけでなく、反撃の一点にもつながった。どうやったって勝てないと諦めていた強豪からセットをもぎ取ることができた。結果なんてどうだってよくて、一連の出来事は私の過去を肯定するために起こったのだとすら思えてきた。
高校でもバレーを続けた。どれだけ辛く苦しくても、あの瞬間に勝る喜びはない。
車はバックでガレージに入る。籠ったエンジン音と匂いが反響した。
「よし、着いたぞ。お腹空いたな。今日のご飯も楽しみだ」
父は娘をあやすような、どこか子どもっぽい口調で言った。
「久しぶりだね、家族三人が揃うの」
「そうだな。この頃出張ばっかりだったから。佐環、将来結婚するなら、もっと家庭的な人を選んだほうがいいぞ」
「急にどうしたの? 私はお父さんみたいな人としか付き合うつもりないよ」
「そうか……」




