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主な登場人物
耳塚 伊吹…男性。勝矢と幼馴染。保守的な性格。
大鼻 勝矢…男性。伊吹と幼馴染。少し冷たい印象を持たれがち。
久目 颯…男性。壱歩と勝矢とは大学で再会した。野球をやっていた。
手柳 佐環…女性。嗣乃と仲が良い。努力家で真面目な性格。
古味山 嗣乃…女性。佐環と仲が良い。瞬間記憶能力を持っている。
緑の長椅子に私と知らない女の子が座っていた。髪を三つ編みにした可愛らしい子。一緒に流行ファッションについて話をしている。その子は手を繋いできたり、抱き着いてきたりしてすごく懐いてくれた。周りに誰もいない。あるのは受付カウンターと「診察室」と書かれたいくつかの桜色のドアだけ。昔、ここに来たことがある。私が熱を出した時、母がよく連れて行ってくれた病院だ。
なんでここにいるのか、分からない。眠い。少し休みたい。女の子は構わず話しかけてくる。睡魔に耐えきれず、瞼を閉じた。
起きて最初に映ったものは黒いパソコンの画面だった。また嫌な夢を見ていたみたい。内容は忘れてしまった。ひどい倦怠感がまとわりつく。傾いた姿勢のまま熟睡したせいで右腕まで痛み出した。夜更かししたこと、ベッドへ入らずオフィスチェアに座ったまま寝落ちしたことを後悔した。
窓とカーテンを閉め切った部屋は灰色の日の光とカフェラテの残り香が立ち込めていた。右手がマウスに当たる。ディスプレイの強い光と「P市死亡ひき逃げ事件、時効成立」というワードが目に入った。
一週間前からずっと取り憑かれたように調べていた。私たち五人を結びつける呪いの言葉。一日だって忘れたことがない。事件のことも、被害者のことも。私の判断は間違っていなかったと信じている。なのに止められなかった。今更弁明しても遅いことは理解しているし、父から「何もしなくていい」と言いつけられている。だから、伊吹くんみたいにブログを公表することなく、割り切れない気持ちが水飴のようにダラダラと垂れがっていた。
衝撃の告発から半年が経過すれば世間の関心は薄れ、当初ほど攻撃されることはなくなった。それでも嫌がらせの電話やメールは絶えない。投稿された映像は事故の瞬間だけではなかった。
「一体何がどうなっているんだ?」
「わ、分からない……。ちょうど階段の最上段に差し掛かった時、すごい音と声がして……。それから、女の人がお酒がどうのって……多分酒飲んで運転してたんじゃないかと……よく聞こえなかったけど」
「すごい音と声って、もしかして……」
飲酒運転を示唆する伊吹くんと颯、そして嗣乃の肉声。犯人の車が去った後の会話まで晒されていた。
——運転手と同乗者は飲酒をしていたのではないか、と撮影者は証言しています。犯人の声を間近で聞いたのは彼しかいませんので、真偽は定かでありません。ただ、もし飲酒をしていたとしても、私たちが通報しなかったおかげでこの件は立証不可能となります。
これによって、私たちは黙認しただけでなく証拠隠滅の片棒を担いだのではないか。その影響が尾を引いている。
職場は休職させてもらっているが、復職できるかどうか怪しい。ひっきりなしに鳴るコール音に耐えきれず、早退することを誰にも告げないまま自宅へ飛んで帰ってしまった。
上司や同僚はとても心優しい人たちだ。私の置かれた状況を鑑みてくれるほど。
役所での仕事は大変だったが、苦痛ではなかった。その代わり、充実感や達成感で満たされることもなかった。




