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火の粉から逃れるようにやってきた郊外は静まり返っている。この沈黙は、逃げてきたことを否定してくれているのではないか。予想と違って世間は大して騒いでいない。過剰なまでに反応してしまったに過ぎないのだと。だけど、それは幻想だった。
——ひき逃げ目撃しておいて通報しなかったなんて、本当に信じられない。しかも証拠映像まで隠し持ってたとなれば立派な犯罪じゃん。その人たちのせいで被害者が亡くなったようなもの。
——大鼻勝矢は犯罪者の息子。ちなみに手柳佐環の父親は大企業の幹部。しかも、つい最近不祥事が起きたばかりのあの企業。まさか、身内の粗相が原因でさらに追い詰められてしまうなんて。
——通報するなんて簡単なこと。なぜ黙っていた。こんなくだらないことで人生を棒に振るなんて普通の精神じゃない。
タクシーの車内で読んだ数々の投稿。炎はまだ燃え盛る途中である。
このままでは裏切り者を見つけ出すことは困難だ。もっとも、判明したところで何かが解決する訳ではない。黙認した罪の重さは平等でも誓いを破るという行為は違う。張本人さえ見つかれば、心の重荷を下せる。自分たちの中でそいつが一番悪いのだと。
窓際へ移動し外を見る。満月は冷ややかに、僕たちが踏み外した道を照らしていた。
父の一件がなかったとしてもこの決断に変わりはない。熊猫パンダ氏のようなインフルエンサーがいる限り。それぞれの正義の下、非難を正当化する人がいる限り。もし彼らが同じ状況に置かれた時、迷わず通報できると言い切れるだろうか。
たったひとつの選択で今後の人生が変わることを予見できる人などいない。
生まれながらの賢者など、いないのだから。




